第17話「飛竜亭③」
結局……悪徳不良冒険者達は……
ニーナの同僚が「通報」、駆け付けた衛兵隊が「捕縛」4人全員連行されて行った。
ディーノは取り調べの際、「裁判になったら証人として出廷を宜しく」と、
衛兵からは念を押された。
ディーノも殴られた相手へワンパンを喰らわせ、結構な重傷を負わせたが……
そもそも、冒険者達がニーナに以前から、相当しつこくつきまとっていた事。
店主ガストン、被害者のニーナを始めとした店のスタッフ、
居合わせた客の擁護や証言もあり、適正な『正当防衛』が認められ、
結局は「お構いなし」無罪となった。
衛兵が去って約1時間後……
事件の為、ランチ終了前に早仕舞いした飛竜亭では……
成り行きで残ったディーノを中心に、ガストンを始め、メイド姿の給仕スタッフが、ぐるりと取り囲んでいた。
囲んだスタッフの中には、当然ニーナの姿もあった。
こ、この状態は!?
も、もしや!
ルサージュ家の男子使用人仲間の誰かが言っていた。
ハーレムとは男の夢だと。
そう、今のディーノはといえば、夢見心地だ。
むくつけき男ガストンを除けば、
まさに聞いた通りのハーレム状態だから。
ガストンがいろいろ話しかけてくるが、半分くらいしかディーノの耳へ入らない。
何故ならば、メイド服姿の給仕スタッフ女子は皆、可愛い。
それに目の前で、彼女達は見たのだ。
仲間のニーナを守る為、少年のディーノがたったひとりで、
ガラの悪い大人の冒険者4人へ立ち向かった事を。
だから、自分が助けられたような気になって「ちやほや」する。
皆が、身を乗り出して笑顔で話しかけて来る。
どの世界でも、どのような時代でも……
女子は身を挺して助けに来る『王子様』が大好きらしい。
と、ここで!
「みんな! いいかげんにして!」
口をとがらせているのは、ニーナであった。
続いて、きっぱりと言い放つ。
「もう! ディーノさんは
何故、ニーナが怒るのか、女子の気持ちに
そんなニーナの気持ちを同僚達が代弁してくれる。
というか、単に突っ込みたいだけかもしれない。
「へぇ、男嫌いなニーナがねぇ? そこまではっきり言うとはね……どういう風の吹き回し?」
「そうそう、男嫌いだよぉ、私達の記憶だと確かさぁ、誰からお誘いされても、きっぱり断っていたよねぇ~」
「ふふふ、ニーナはさあ、ズドンと切り立った
対して、ニーナは頑として否定する。
「な、何、言ってるの? わ、私は断じて! 男嫌いではありません!」
しかし同僚達の追及は容赦ない。
「うわ! いきなりの方針変更?」
「もしかして、ガラリと心変わり?」
「うふふふ、ディーノさんがそんなに気に入ったのぉ?」
「うう~」
「何?」
「はっきりと白状しなさい」
「思い切ってカミングアウトしちゃぇ!」
「うう……ニーナは……り、理想の男性に巡り会えなかっただけです」
「理想の男性!? わ、わ! とうとう言っちゃった」
「じゃあ、理想のディーノさんとは運命の出会いって事!?」
「あはは! 素敵ぃ!」
そんな集中砲火の中、
「……ディーノさん、私を助けてくれて本当にありがとう」
ニーナは頭を深く下げ、ディーノへ礼を告げた。
一生懸命、勇気を振り絞ったに違いない。
しかし、まだまだ同僚達の追及は続いた。
「おお、そっから先は!」
「そうそう、その先が肝心なのよ、何を言うか……がね」
「は~い、プリーズ、愛の言葉あ、告白タ~イム!」
しかし……ニーナは口をしっかりつぐんでしまう。
「…………」
「あらら、黙っちゃった」
「残念!」
「でもその様子だと一目瞭然ね、ディーノさん見て」
同僚のひとりに促され、ディーノが見やれば……
ニーナの顔はトマトのように真っ赤であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから……
話は大いに盛り上がり、あっという間に夜となってしまう。
頃合いだと見たのか、ガストンは厨房へ入って腕を振るい、
ディーノへはお礼を、スタッフへは慰労も兼ね、美味い料理を作ってくれた。
ディーノが未成年なので、酒は無かったが……宴は大いに盛り上がった。
面白がった? 同僚達は頬を紅くしたニーナを無理やり、ディーノの隣席へ座らせたのだ。
その上、「あ~ん」まで強要した。
でも途中からニーナは開き直ったらしい。
というか、自分の気持ちに向き合おう、素直になろうと考えたようだ。
積極的に話しかけて来て、自ら「あーん」を何度もしてくれた。
もしもステファニーが目撃したら、「怒髪冠を衝く――激しい怒りの為、逆だった髪の毛が冠を突き上げる」ようなシーンである。
さすがにディーノは聞けなかったが……
少しだけ年上らしい事もあって、『姉』の気持ちも重複しているのか、
ニーナはたまに、やや上から目線で話して来る。
そんなニーナをディーノはとても好ましく思う。
ニーナは控えめな性格で穏やか、とても優しい。
母性も強いようだ。
この出会いを大事にしたい。
思い切って感じた気持ちを、ディーノが素直に告げたら、
ニーナは「私も!」と言い、とても嬉しそうに笑ってくれたのである。
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