気が付いたら下僕!隙あらば支配!追放大歓迎!実は脱出!マウントポジション大好きな悪役令嬢よ、さようなら!の俺が幸せになるまでの大冒険物語!
東導 号
第1話「プロローグ 冒険者の子と悪役令嬢」
剣と魔法の世界、ピオニエ王国遥か南方、辺境の地。
ここに人口1,500人弱、小さな町フォルスはある。
このフォルスの最奥、高い丘に建つ石造りの城館に、今日も領主ルサージュ辺境伯の愛娘ステファニーの激しい怒声が響いていた。
「こらぁ! ディーノぉ! トレーニングは終わったぁ? あら、まだ途中だったのぉ! フォルスの町へお使いに行って来てよぉ!!」
「は、は、はい! お嬢様 や、やっとダッシュ100本とお庭のランニング30周、腕立て、腹筋が各300回、木刀の素振り1,000回と乗馬訓練1時間が終わったところです。でもまだ掃除、洗濯、料理の修業、王都のお友達へのお手紙の代筆が終わってませんが……あ、肩もみとお部屋のお片付けもま、まだなんですが……」
「私が課したトレーニングメニューが何とかこなせるようになったと思ったら、相変わらずスピードアップしないのね! ホントに愚図でのろまだわ! 買い物を先にして! 超早くね! 15分以内に必ず戻って来て! もし1秒でも遅れたらきっついお仕置きしてあげるわよ!!」
「わ、分かりました」
「駄目ぇ! 口の利き方が全然なってないわっ。言い直して! かしこまりましたでしょ?」
「か、かしこまりました」
「もう! ディーノは私の忠実なる下僕なんだからっ!! 命令には100%絶対服従、加えて言葉遣いも品よく丁寧にっ! 以後気をつけて!! 分かった?」
「え? いつの間に? ……あの俺、忠実なる下僕じゃなく、単なる従者なんですが」
「は? 俺?」
「い、いえ……し、失礼致しました。
ディーノの大人しい物言いを聞くと、何故かステファニーは火が点いたように、著しく早口となる。
「宜しい! 何か文句あるう? それに良いじゃん、下僕って呼んだって。従者と同じようなもんでしょ? あんたが、隙だらけなのが悪いのよ!」
「は、はあ……隙だらけって……どういう意味ですか、それ?」
「隙だらけは隙だらけ! あんたが、すぐ付け込まれる脇の甘さがいけないのよ! そんな事より、今度反抗したら罰として、私の靴を舐めて掃除して貰うわよっ!!」
「分かり……いや、かしこまりました」
「うふふ、その代わり5分以上早く10分以内に戻って来たら、素敵なご褒美をあげる。私のおやつのケーキを半分あげるからっ♡ 頑張って仲良く一緒に食べようねっ! その後も当然一緒に、剣の稽古よ! びしびし鍛えてあげるわよっ」
ご褒美にケーキ?
食べられるわけがない。
指示された店は片道だけで徒歩10分以上かかる。
全速で走らなければ絶対に間に合わない。
それに、剣の稽古?
稽古と名の付く、一方的なストレス解消的イジメじゃないか!
俺は標的代わりに、木刀で肉体バッシングされるだけだ!
そんなディーノの無言の抗議など完全スルー。
ステファニーは冷たい微笑を浮かべていた。
金髪碧眼の美少女でありながら、過酷な要求をする凶悪令嬢ステファニー16歳、
そして大人しい従者の少年ディーノ15歳。
何故、このような状況となったのか……
時間は少しさかのぼる……
ディーノの父クレメンテ・ジェラルディはピオニエ王国冒険者ギルド所属の中堅クラスの冒険者であった。
気心の知れた仲間とクラン『スティゴールド』を組み、リーダーとしていくつもの任務を受け、成功させて来た。
しかし、残念ながらクレメンテはクラン名のように「輝き続ける」事は出来なかった。
とある依頼を遂行中に魔物との戦いで大きな怪我をし、引退を余儀なくされ、クランも解散したからだ。
不幸にもクレメンテが亡くなった依頼を発注したルサージュ騎士爵は、これまでに何度も、クレメンテ率いるクラン『スティゴールド』に依頼をし、自らの出世につなげて来た。
ルサージュは冷酷な王都貴族には珍しく、人間として非常に義理堅い男であった。
冒険者として立ち行かなくなり、生活の手立てを失ったクレメンテを引き取ったのだ。
そして自分の屋敷における雑用担当の召使いとして雇ったのである。
やむなく冒険者を引退したクレメンテには亡き妻との間に息子がひとり居た。
息子の名はディーノといい、当時11歳の少年である。
ディーノは元冒険者の父に似ず、幼い頃から大人しく、あまり目立たない子供であった。
また魔法もあまり使えず、武道も苦手であったので、父のように冒険者になろうとは思わなかった。
ディーノは穏やかな性格のせいなのか、子供ながらに……
地味に目立たず安全に生きて行こうと考えていたのである
クレメンテとふたり王都で暮らしていた11歳のディーノは、
当然ながら父に従い、ルサージュ家の屋敷へ共に入った。
一方ルサージュ騎士爵にも美しく気が強い……
否、気が強すぎる荒馬のようなひとり娘が居た。
娘の名はステファニー。
ディーノよりひとつだけ年上で、当時12歳になっていた。
愛娘ステファニーの召使い兼遊び相手には丁度良いと、
ルサージュはクレメンテへ申し入れをし……
ディーノをステファニーの『従者』としたのである。
激しい気性の貴族令嬢は、大人しい気性の平民少年を意外にも『大のお気に入り』とし……
同性の侍女やメイドが居たにもかかわらず、何かにつけて用事を命じ、入浴とトイレ以外は片時も傍から離さなかった。
この平凡な少年ディーノが後に『英雄』と呼ばれるほどの強さを身につけ、堂々たる冒険者になるとは、当時は誰もが想像だにしない……
話を戻そう……
ディーノがステファニーの従者になってから1年後、今から3年前、
ルサージュ騎士爵は、これまでの多大な貢献を認められ、異例の大抜擢を受けた。
何と!
3段跳びで
そもそもピオニエ王国における『辺境伯』とは、
伯爵よりやや格下といえる地方長官の役職名である。
ルサージュが辺境伯になれたのには裏事情があった。
少し前にフォルスを治めていた前任者が王家に対する謀反を企てた事が発覚、処刑されたのだ。
ピオニエ王家は
なかなか良き適任者が見たらなかった。
そこで王家は、信頼厚き忠臣ルサージュ騎士爵へ、
前例がない特別な
という経緯で、ルサージュは南方の街フォルス、及びその周辺の広大な地の領主を命じられ、去年王都ガニアンからこちらへ移って来ている。
このフォルスへ移ってから、ステファニーは大いに不満であった。
確かに父は上級貴族の端くれとなった。
しかし折角お洒落な王都で暮らしていたのに、
今や超が付く田舎暮らしとなってしまった。
日々変化に富んだ王都での日々。
対して、時の流れが止まってしまったようなフォルスでの平々凡々な日常。
退屈と暇を持て余したステファニーは、気晴らしに何か習い事をしようと思ったが……
彼女が望む王都で流行るような モノは何もなかったし、教えてくれる者も皆無だった。
考え抜いた末に……
選択肢の無かったステファニーは剣を習おうと決意した。
何せ彼女が住むのは辺境の地。
周囲には怖ろしい魔物が
護身術くらいには役立つと考えたようだ。
お嬢様のステファニーは、乗馬は中々の腕前であったが、
今までに剣を握った事はなかった……
だが元々、相当な素質があったらしい。
仲の良いルサージュ家副従士長、2m100㎏の堂々たる体躯を誇る女傑ロクサーヌ・バルトに手解きを受け……
師匠が同性の気安さもあって素晴らしい腕前に上達して行く。
遂には互角に戦えるほどとなり、免許皆伝と言われるくらいとなった。
ステファニーは、「ついでに」とロクサーヌから格闘術も習い、こちらも剣技以上に天賦の才を示した。
こちらは、体格差のあるロクサーヌを圧倒。
特に神速で繰り出すグーパンチは破壊力抜群、群がるゴブリンを片っ端から、粉みじんに瞬殺するほどとなっていたのである。
しかし……いくらゴブリンを粉々にし、時にはオークすらグーパン一発で殴殺しても……
結局、地方暮らしで退屈を持て余すステファニーの欲求不満は完全に解消されず、
はけ口は、ほぼ従者ディーノへ向けられていた。
冒頭の「こらぁ! ディーノぉ!」と怒声が飛ぶ日常となってしまったのである。
日々怒鳴られるディーノは思う。
ステファニーは表と裏があり過ぎると。
ごくごくたまに優しい言葉をかけられる。
お礼を言うと、「ふん!」と鼻で笑われた。
4年間で数回「好き♡」と言われた事がある。
その度に「お嬢さま、お戯れを」と返したら激怒された。
何故怒ったのか分からなかった。
正直、ステファニーは『猛女の不思議ちゃん』と、
使用人の間では噂されている。
ディーノも正直ステファニーが何を考えているのか分からない。
こんな会話と生活が毎日毎日続いている。
元々ディーノはとてもおとなしい性格だったが……
いいかげんストレスが頂点に達しようとしていたのだ。
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