緩和と圧力。2024.04.23

ふてぶてしい。とは。それは私のこと。


また乗り越してしまった。

気が付いたら終点に着いてしまっていた。

「終点。 押上。 押上。」

「お忘れ物ございませぬ様、お気を付けてお降り下さい。」


(終点。。。)

スマホで、乗り換え案内を確認する。

13駅も乗り越してしまった。

別に、居眠りをしていた訳でも無いのに。


特に不満もないが、なんかちょっと緩慢な。。。

そうかと、現状を受け入れ、

また帰路に向かうことにした。

やるせなさと言うか、なんと言うか、

やる気がでないと言うか、集中力に欠ける。

同じことを再度やり直すこと程、熱く成れないことはない。だるいこの上なさが上気する。

(気持ちのリセットするか。。。)

鞄のチャックを開け、先ほどセッション帰りに頂いた饅頭を口に放り込む。

薄皮のまったりとした、口内の上部にへばりつく感と、白餡のもっさりとした食間と甘さが、

もわっとした、ただれた私の意識を甘味の刺激で弛ませていく。


駅のホーム。路線看板を見ているが、

見ているふりに見えるかもしれないが、

看板に向き合いながら、文字と絵を目で追い、

2口で饅頭をむ。

少し気持ちが穏やかになり、

そして、貰ったもう1つのおかきを袋の中のまま、手で割る。

看板の奥の男子学生さんがおかきの割れる音で振り返り、割れたばかりのおかきに目をやる。

音が鳴り響いていたらしい。


普通は、駅のホームでおかきは食べないであろう。普通は。でも、今は集中力が欠けている。

それは致し方がないことで。私にとっては緊急事態である。この散漫な意識のまま続行すると、ろくな結果を引き寄せない。

気持ちのリセットが必要である。

割ったおかきを口に入れ、ボリボリガリガリと噛み砕く。

音が口の中で鳴り響き、噛み砕く感触に、次第に心は落ち着いてくる。

割り砕いたおかきのもう1つを口にいれ、バリバリガリガリと食べ尽くす。

(よし。帰るか。)

やっと、意識が帰宅に向かい、やる気になり始めた。ほっとして、身体をくるりとと回転させたと同時に、昔を思い出していた。

そう言えば、昔もこんなことがあったなと。

口から棒をはみ出させ、口の中でゴロゴロと、ペコちゃんキャンディーを転がす。。。

上司と会話をしながら、口の右端からは、白い棒がはみ出す。


いや違う。それではなくて。

(香り?)

(みかん?)

(柑橘類?)

(そうだ。みかんだ。)

「なんかさ。柑橘系の香りしない?」

上司が互いのパソコンの隙間を割って話し掛ける。

「そりゃ。そうですよ。」

「へっ?」

「だって、私、今、食べてますもん。みかん。」

堂々と、みかんを食べながら、仕事してたな。

あの時。休憩時間だと勘違いして。。。


そして、ふと、(あっ。今、定時時間内だった。。)と、思い出したんだっけか?

「俺、柑橘系の匂い、苦手なんだよね。」

「最近、なんだか、柑橘系の匂いがするから、

消臭剤を2個置いているんだけど。」

「えっ?」

「それって、私のことじゃないですか?」

隣の後輩が急に私と上司の会話に参戦し始める。

「私、最近、香水、柑橘系なんですよー。」

「それでか。なんか臭い。いや。。」

「なんか。臭う。いや。。。」

「ひど~い。」

「なんか机の上に消臭剤が置いてあんなって思ってたんですよ。しかも、いつのまにか、2つに増えてるし。」

「それって私ですか?私臭いってことですか?」

「信じらんな~い。マジいや。」

「いや。それは。ごめん。そうじゃなくて。」

「そうじゃなくて、なんなんですか。」


(なんかよく分からんが、私の食べたみかんのせいで、賑やかになっとる。。)

あの中では、阿吽の許可されていない空気を平気で無視する様な事を無意識下に行ってしまう。

衝動は押さえきれない。


食べ物を口に放り込むことが、精神的安定に繋がり、食べ物を口に放り込むことが、肥満に繋がり、精神的な不安を増大させる。

両極を楽しむ。

緩和と圧力。


周りが気になるのに、周りの意識を平気で無視する。それって、些細なわたし。


みんなが気にすることを平然とやり込めてしまう。大人しく、目立たなく、いるかいないかのようなそんな存在でありたいと思いながら、ときたま、押さえきれない、素が、自分のふてぶてしさを表現してしまう。

「あれ?なにしてんの?」

「うん?なにって、なにが?」

「それはこっちのセリフだよ。」


人の目を気にして生きているようで、

あるがままに、あるがままに

素を出す私。

それが何者でもない、私の姿。

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