84.精霊術師、たじろぐ
「――よしっ……私の花嫁は……君に決めたっ!」
「「「「「っ!?」」」」」
盗賊が遂に嫁にする子を決めたらしくターゲットを指差し、俺たちや女性陣の視線が一人の人物に注がれる。
それは、なんと女装した青年剣士リーフだった……。
「……そ、そそそっ、そんなぁ……」
「これから君は、紛れもなく私の花嫁だ。おめでとう! 光栄に思いたまえよ!」
「で、でもぉ……」
あれ? なんかリーフが照れ臭そうにもじもじして、一層女性っぽくなってるような。彼も盗賊の持つ狂気の影響を受けてしまってるのかもな。
「そう恥ずかしがるなっ。さあ、そうと決まったならこっちへ来たまえ、早速夜の営みを始めようじゃないかっ!」
「い、嫌ああぁっ、まだ夕方だし――」
「――そんな細かいことは気にするなっ。ハハハッ!」
盗賊がリーフを抱きかかえ、颯爽と例の小屋へと連れ去っていく。目に見えないくらいの猛スピードだったが、なんかそれまで嫌がってたはずのリーフが満更でもないといった顔だったような……。
俺はエリスとティータの顔を見たが、やはり首を横に振られた。まだ狂気が発現してないのか。
「フフッ、さあ、おっぱじめるとしよう……」
小屋の中、リーフの前でおもむろに上着を脱ぎ捨て、上半身裸になる盗賊。おいおい、一体何を始めるつもりなんだよ。こんなの見たくないんだが……。
「ああんっ。優しくしてください……」
「「「っ!?」」」
リーフが信じられないような台詞を発したそのとき、明らかに空間が歪むのを感じた。そうか、これが狂気なのか。エリスたちの顔を見ずともわかった。狂気は、二人の気が混じり合ったときに発生する可能性があるということも。
とにかく俺はこれ以上、こんな酷い光景は見たくないということもあって、急いで影の中から飛び出た。
「――連続誘拐犯、そこまでだ!」
「そこまでだよー」
「そこまでにしなさい」
「フシュウウゥゥゥッ……」
盗賊の体からオーラのようなものが出ているのがわかる。これぞ、発現した狂気が目に見える形になったものだろう。その凄まじいまでの迫力を前にした俺は、精霊王がついているのに怯んでしまうほどだった。
このオーラについては、あの【彷徨う骸たち】ですらなかったものだから、やつがどれくらい強いのかは容易に想像することができる。
俺たちでなければ到底太刀打ちできない相手だろう。とにかくこれを追い出さないと、上級の狂気、さらにはその上に君臨するリヴァンら、狂気の化身に辿り着くことはできない。
ちなみに、リーフは狂気の影響を強く受けたらしくて既に気絶している様子だった。
「……クルナラ、キタマエ……」
盗賊が白目を剥いてニヤッと笑ったかと思うと、その姿が忽然と消えた。ドアが開いてるし、外だ。
「てか、やつの姿が全然見えないんだが……。エリスとティータは見えるか?」
「ううん、レオン、全然見えないよー」
「うん、私もだわ、レオン」
おいおい……精霊王ですら目視できないほどのスピードなのかよ。もしかしたら逃げたんじゃないかと思ったら、そうじゃなかった。
「「きゃっ……!?」」
強い風が吹いたんだ。草原にいたあのときみたいに。見ると、エリスとティータの服が切り裂かれて薄らと血が滲んでいた。
「いったあーい。服も破れちゃった。これ、お気に入りだったのに。バカッ……」
「うぅっ……本当ね。胸が一部見えちゃってるわ……」
それからもどんどん、尋常じゃないスピードで精霊王を中心に切り刻まれていくが、どうすることもできなかった。
「「やあぁっ……」」
エリスとティータにとっては掠り傷とはいえ、その見た目がヤバい。どんどん服が裂けていってるので、最早色んな意味で正視できなくなりつつある。
さすが、筋金入りの変態盗賊。狂気が発現しているのに普通に喋れる上、見た目も性別も完全な男である俺は狙わないのか……って、こんなやつを褒めてる場合じゃなかった。元々相当に狂ってる人物なんだろう。これ以上好き勝手にさせておくわけにはいかないし、早々になんとかしなくては。
無効化能力さえも捻じ曲げる狂気相手とはいえ、【彷徨う骸たち】の髑髏の面がそうだったように、必ずどこかに弱点があるはずなんだ。それを根気よく探し出し、破壊するしかない。
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