67.精霊術師、感慨に耽る


「レオン様っ、これが報酬の、金貨3枚、銀貨5枚ですよ! さらに――」


「「「「ごくりっ……」」」」


「――S級昇格となりますっ!」


「「「「おおおぉぉっ!」」」」


 俺たちはソフィアを含め、互いの顔を見合わせてとことん喜び合った。底辺のF級から始まった【名も無き者たち】が、遂に念願のS級パーティーまで成り上がったわけだ。


 これで現在の所持金は、使った分を引いても金貨14枚、銀貨30枚、銅貨103枚となった。


 お金もかなり貯まったし、メンバーも増えたから都内にパーティー宿舎を建てるのもありだな。確か金貨15枚くらいで購入できるんだっけか。そうなると土地代や維持する費用も必要になってくるが、この調子で稼いでいけるなら問題ないだろう。


 思えば、一発で昇格してきたっていうのもあるが、ここまであっという間だったような気がするな。同じS級パーティー【天翔ける翼】を追放されたときは人生のどん底だったものの、そこから大成功を味わえた上にこうしてみんなと出会えたんだからむしろよかったんだ。


「レオン様、本当に、このたびはおめでとうございます……」


 ソフィアの目元が光っている。彼女も過去のことを思い出しているんだろうか? もしこの人が側でずっと見守ってくれていなかったら、今の俺はなかったかもしれない。


「ありがとうございます、ソフィアさん……。エリスとティータも、ここまでよく頑張ってくれたよ、ありがとう……」


「えへへっ、わたし、照れちゃうー」


「ふふっ、私も少しだけ照れるわね……」


「余も照れるぞおおぉぉっ!」


 んん? なんか違和感があると思ったら、マリアンもどさくさに紛れて喜びの輪の中に入っていた。彼女は頑張ってくれた印象がまったくないどころか、むしろ妨害ばかりしてきたと思うんだが、よく考えるとそこまで脅威じゃなかったしまあいいか。


 ちなみに、パーティーの格は今のところSSS級まであるんだが、S級以降は洞窟ダンジョンだけじゃなく、ほかのダンジョンも攻略しないといけない上、最速記録を出してもすぐに昇格というわけにはいかない。


 下級ならともかくも、S級パーティーならこれくらいやっても当たり前、という風に見られてしまうからだ。


【堕天使の宴】がSS級まで上り詰めたのも、掲示板を見ればわかるが塔ダンジョンや遺跡ダンジョンの一部を攻略した上で、さらにそれに関する依頼を複数こなしていたからなんだ。これらは洞窟ダンジョンより遥かにマップ数が多く、難易度自体も格段に高いといわれている。


 奇妙なのが、そんな彼らが洞窟ダンジョンにおいて闇属性のものだけクリアしていないってことだ。一部とはいえ、塔や遺跡ダンジョンを攻略できるなら、闇の洞窟ダンジョンも普通にクリアできるはずだが。


「…………」


 あれ、ソフィアの顔が何かおかしい。ぼんやりとしていて、瞳にまったく光が宿っていなくてまるで等身大の人形のようだ。


「ソフィアさん?」


「ソフィア、どうしたのー?」


「どうしたのかしら、ソフィア……?」


「これこれ、ソフィアとやら、何を黙っておるのだ、無礼であろう!」


「……あ、も、申し訳ございませんっ! ぼーっとしちゃってました。実は、【堕天使の宴】についてずっと調べごとをしていて、それで疲れちゃったみたいです……」


「な、なるほど……。楽の精霊なのに頑張り屋なソフィアさんらしいですが、つい最近倒れたんですから無理はしないでください」


「私は、頑張っているつもりなんてないんです。レオン様のサポートをするのが楽しいからやっているだけですよ」


「ソフィアさん……あ、それで、何かわかったんですか?」


「はい。やはり、私の勘は当たっていたようです……」


「「「「……」」」」


 ソフィアの言葉に対し、俺たちはぽかんとした顔を見合わせていた。彼女の勘が当たっていたということは、すなわち日常において平穏を脅かすようなが起きたってことだよな?


「ここではなんですので、奥でお待ちしております」


 ソフィアは注意深げに周囲を窺うと、カウンターの奥へと引っ込んでいった。それだけ他人に聞かれるとまずい話ってことか。


 でも、彼女が言うような危うい気配は微塵も感じなかったっていうか、そういうのがあったらエリスたちがとっくに察知していると思うし、これは一体どういうことなんだろう。

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