55.精霊術師、芝居をする
「で、そちらさんは、俺たちに何をしてほしいんだ?」
俺がそう疑問の言葉を投げかけると、ルディらしき覆面姿の人物が左手で手招きしてみせた。
「なんにもしなくていいから、手を上げて大人しくこっちへ来なっ! そしたら、お前の大事な仲間たちを解放してやる」
「……あ、あぁ、わかった」
相変わらず大事な仲間という言葉に違和感があったが、ここは素直に従うことに。
「――さあ、動くんじゃないよ。そうそう、そこでお座りっ。よし、お前たち、今のうちにレオンを縛り上げちまいなっ!」
「へいへい」
「はいはい」
「……了解」
俺たちは覆面姿の三人にロープで雁字搦めにされていくが、こんなものはその気になればいつでも外せるので問題ない。
「ねえねえ、レオンー、このロープ解いていいー?」
「これはちょっと窮屈ね。解いてもいいかしら、レオン……」
「いや、もうちょっと我慢してくれ、エリス、ティータ」
「はぁーい」
「わかったわ」
そう平然と答えつつ、ほんの少しだけ顔をしかめる精霊王も中々絵になる……って、俺は何を言ってるんだか。
それにしても、俺だけじゃなく精霊王を縛り付けるなんて、なんとも罰当たりな連中だ。こちらを覗き見している光の精霊たちも眉をひそめてヒソヒソと噂し合っている様子。
……ん、俺を縛ったやつらの手によって、今度はファゼルたちのロープが解かれ始めた。本当に解放するつもりなのか。
「――さあ、ファゼルとやら、お前がこれからやることはわかってるね。まずはその手でレオンをたっぷり甚振って、それからぶっ殺すんだよ!」
「「「……」」」
俺は思わずエリスたちと驚いた顔を見合わせていた。なんとなく予想していたことだが、このやり方はいくらなんでも酷すぎる。
「レ、レオン、すまねえが、悪く思わないでくれ……!」
「ファゼルとかいうのっ! その欠損した役立たずの両手じゃなくて、肘でやりなっ!」
「ううっ……うおおおおおぉっ!」
女に命令されたファゼルが、両肘を使って俺の顔面を殴り始めたが、当然のようにまったく痛みがない。しかし、一切ためらう素振りもなくよくやれるな。俺を追放しただけでなく、助けてもらっておいて……。
ただ、痛がってないと警戒されそうなので、俺は自分で自分の唇を噛み、血を滲ませつつ、苦悶の表情を浮かべてみせた。この際だから悲鳴も上げとくか。
「ぐ、ぐあぁっ! うごごっ!」
「おっ……なんだいなんだい、鉄壁がどうの言ってたけど、普通に効いてるっぽいじゃないか。あのときだって、たまたま矢が当たらなかっただけじゃないのかい?」
「ふわぁ……まぁ、ありうるかもなぁ」
「そうかも?」
「……油断だけはするな……」
「…………」
リヴァンという名の盗賊だけは警戒している様子。それにしても、まさか向こうから勝手に犯行を自白してくれるとはな。99%が100%になっただけだが。
「レオン、大丈夫ー?」
「大丈夫なの、レオン?」
エリスとティータが俺のことを心配してくれている。多分、怪我のことじゃなくて全然痛くないのに痛がってるから精神状態の心配だとは思うが。
「アハハッ! お前たちのご主人様が生きて帰ってこられるって、本気で思ってるのかい? 残念だねぇ、ここで無様に死ぬのみなんだよ。散々あたいらの邪魔をしてきたんだから、当然の報いさ。さあ、どうしたんだい、ファゼル、とっととレオンにとどめを刺しなっ!」
「はぁ、はぁ……も、もう、こんなこと、できねえ……」
「は、はぁっ? 何言ってるんだい――」
「――できねえ、できねえんだよおぉっ……!」
ファゼルが涙目になって地面を殴り始める。こんな姿を見るのは初めてだ。レミリアやマールがあんなことになって、それに加えて助けようとした俺を殴ってるってことで相当に精神的にこたえたんだろう。
といっても、反省するのが遅すぎだけどな。100回くらい肘打ちしてきたし、精霊王がいなかったらとっくに死んでいたと思うぞ。
ただ、ファゼルの苦しみもだえる様子を見ているうちに、この男へのわだかまりは完全になくなったわけではないものの、薄まりつつあるのも事実だった……って、ファゼルのほうに堕天使たちの関心が向かっているし、やるなら今のうちだな。
ただ、ここは光の精霊たちが住むダンジョンだから、できる限り機敏に無駄なく動かないといけない。そういうわけで、俺はロープの強度を無にしつつ破ると、あらかじめ無効化していた杖を手元に出した。
「「「へっ……?」」」
俺は続けざま、風の刃でやつらの覆面を破ると、ルディとアダンの防御力を無効化しつつ、間抜け面をほぼ同時に叩き潰す。
「ぎゃああぁっ!」
「ごげっ!?」
「ひ、ひいぃっ!」
さらに、逃げようとした白いローブの青年の背中を一突きして、おまけに風刃によって風穴を開けてみせた。
「あがっ……」
「――ふう……」
「レオン、すごーい。ちょっぴりエグいけどー」
「やるわね、レオン。ちょっとグロいけれど……」
無惨な死体を見たエリスとティータの感想に、俺は思わず苦笑する。少しじゃないけどな。
まあ俺がここまで思い切ってやったのは、胸元で光る破壊と再生のペンダントがあるからこそで、あとで元に戻すつもりでいる。もちろん、殺したくないからとかじゃなく、ほかにちゃんとした理由があるからだが。
「あれ、あんたは逃げないのか?」
「…………」
これだけやればもう充分で、残った一人はとっくに逃げ出したかと思いきや、いつまでもその場に突っ立っていた。リヴァンとかいう人物で、頭は切れそうだがやけに存在感の薄い男だ。
「ここで、やられるわけにはいかない……」
なんだ? リヴァンは仕方ないといった様子で、短剣を左手から右手に持ち替えたわけだが、それまでとは明らかに雰囲気が変わっていた。
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