47.精霊術師、根を断つ


 風刃の杖が完成したということもあり、俺たちは再び地の洞窟ダンジョンへと赴くことになった。もちろん、その前に冒険者ギルドでC級の依頼を受けることも忘れない。


 その内容とは、邪面草のドロップ品である球根を10個集める、というものだ。


 四大属性――火水風地――の洞窟ダンジョンに棲む一般モンスターの中でも、邪面草は最も強力であり、出現数が少ない上に球根のドロップ率も低い。


 それに加えて、周りから伸びてくる蔦に邪魔をされやすいってことで、そこそこ難しいとされるCランクに相応しい依頼となっている。


「「「――おおぉっ……」」」


 その地の洞窟にて、俺たちは以前と段違いの快適さを味わうことになった。


 まさに根こそぎってやつで、あれだけ視界を埋め尽くすほど伸びてきた植物たちが、またたく間に切り刻まれていったのだ。蔦を切ってほしいと風刃の杖に願う必要もなく、勝手に向こうから伸びてくるもんだからあまりにも楽だった。


 いやー、視界が普通に見渡せるって、こんなに気分がいいものなんだな……って、植物に一切覆われてない剥き出しの岩肌を見て、鍛冶師のルコの裸を思い出してしまった。


「レオン、どうしたのー?」


「なんだか顔が赤いわよ、レオン……」


「あ、い、いや、なんでもないよ」


 エリスとティータが顔を覗き込んできたわけだが、二人の胸元が開いていてこれまた心臓に悪かった。油断すると鼻血が出てしまいそうだ。蔦ではなく煩悩に巻き付かれた俺の心よ、無になれ無になれ……。


『――ゴギイィイィッ!』


 そんな無の境地の中、遂に発見した邪面草と交戦したわけだが、防御力を無効化するとともに風刃の杖でダメージを与え続ける間、杖で5回叩くことで倒せた。


 あのスノーゴーレムよりもタフとは恐れ入ったが、俺の杖捌きも以前よりは上手くなってるから、ほとんど一瞬で討伐できる。


 数も少ないってことで、地の精霊におおよその場所を窺いつつ、俺たちは邪面草のいるところを探しながら歩く。


 正確な場所までは教えてくれないとはいえ、蔦以外に特徴のないダンジョンで視界が開けているというアドバンテージは大きく、トントン拍子に邪面草を倒すことができていた。この調子なら、今回も素晴らしい記録を樹立できそうだな。




 ◇ ◇ ◇




「つまり、【名も無き者たち】を妨害しようとしたけど、見失ったので諦めて帰りました、と……貴様らはそう言いたいのか!?」


「「「「うっ……!」」」」


 都の某所にある小屋の中にて、仮面を被った者の甲高い怒声が響き渡り、その前でひざまずく四人の肩がビクッと震える。


「……まったくもって情けない。そんなことでは、根っこを断たれた大樹も同然ではないかっ! よくもそれでSS級パーティーを名乗れたものだな……」


「「「「……」」」」


「このままでは、余が大嫌いな汗臭い冒険者どもにまたしても記録を更新されるぞ! 悔しくないのか? 貴様らのような、どんなパーティーからも捨てられてきたろくでなしどもにとっては、一位の記録を守り続けることこそ冒険者への復讐となるだろうに! 余が作った【堕天使の宴】を今すぐ解散させてもいいのだぞ!?」


 その言葉を皮切りにして、黙って聞いていた四人のうちの一人、短髪の女が恐る恐るといった様子で手を挙げる。


「剣士ルディ、どうした、何かいい考えでもあるというのか?」


「え、えっと、リーダー、あたいが思うにさ、もう直接手を下したほうがいいんじゃないかなって。が合流したら、だけどさ……」


「あいつが合流したら、だと? 確か、誰かの紹介でやってきた召喚術師か。名前は忘れたが、あれは滅法強いし思わぬ掘り出し物だった。それにしても、やつがいないと本当に何もできないのだな、貴様らは……」


 仮面を被った者が呆れた様子で首を横に振る。


「んで、いつになったら合流するのだ?」


「そ、それが、あたいもいつになるのやら、さっぱりわかんなくてさ――」


「――たわけっ! 貴様、殺されたいのか!?」


「っ……!」


 怒鳴られて肩を竦めるルディ。まもなく、助け船を出すかのようにスッと手を挙げた人物がいた。


「……貴様は、盗賊のリヴァンか。やつについて何か知っているのか?」


「……はい。あいつは風の洞窟までは自分らと一緒だったんですが、途中でよろめいてるのをこの目で見たし、相当に具合が悪いようです。他人を寄せ付けない上、何を考えているかわからないやつだから、自分が知っているのはそれだけでして……」


「……そうか。それなら、病が改善するまで無理はさせられまい。しかし、だからといってこのまま手をこまねいているわけにはいかん。余のパーティーに被害を出さず、やつらに記録を出させぬように妨害する方法を考えるのだ。おい、貴様っ、、答えろ!」


「ふあぁ……え、俺? なんで俺が――」


「――黒魔術師アダン、貴様っ、死にたいのか!?」


 仮面の人物が小剣を男の喉に突きつける。


「……い、いや、さすがに、まだ死にたくはねえかなって……」


「では、答えるのだっ、早く!」


「ん-……俺らだけでやるのはだりぃし、どうせ無理だろうから、ならず者でも雇うのは?」


「こ、こやつ……ならず者を雇うだと? SS級パーティーよりも強いならず者がどこにいるというのだ……?」


「ププッ……あ、ご、ご、ごめんなさいっ!」


 白いローブを着た青年が、しまったという顔で口を押さえる。


「……白魔術師のイシュト、次は貴様がどうするべきか答えろ」


「は、はひっ!」


 イシュトと呼ばれた白魔術師はしばらく頭を抱えて思い悩んだ様子だったが、まもなくはっとした顔で仮面の人物のほうを見やった。


「――そ、そうだっ、が見つかりましたっ……!」

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