46.精霊術師、悩殺される
「…………」
あれからすっかり日も暮れて、俺はエリスとティータを連れて安ホテルに泊まったわけだが、眠るために目を瞑った状態をいくら維持したところで、一睡もすることができずにいた。
気が付けば考え事をしてしまうんだ。それくらい、今日地の洞窟で目撃したSS級パーティー【堕天使の宴】の弱さは衝撃的だった。
あんなやつらが今まで記録を作っていたというのもおかしいし、ならず者たちをバラバラにして殺したのもかなり無理がある。
いずれも、あの程度の力じゃ無理なことだ。まだ元所属パーティーの【天翔ける翼】ほうが強い。ということは、なんらかの理由で重要なメンバーが欠けている、とか……?
そう考えたとき、知を司る光の精霊がほんの一瞬だけ顔を出した気がするし、ありえそうなところだと感じた。だとすると、まだ油断は禁物か――
「――くー……」
「あっ……」
気が付くと、エリスが俺の横で寝息を立てていた。おいおい、お互いによく眠れるように朝まで無になってくれって言っておいたのに、これじゃますます寝ることができなくなるじゃないか……。
「エリスは困った子ね、レオン……」
「あぁ、そうだな……って!」
逆方向にはティータも横たわっていた。エリスに対抗して現れたのかどうかは知らないが、美少女たちに挟まれて普通に寝るなんて無理があるって……。
「――エリス、ティータ、ここで仲良く寝るように」
「はーい。むにゃ……」
「……わかったわ。ふあ……」
結局、二人をベッドに寝かせて俺は床で寝ることにしたわけだが、さらに目が冴えちゃったし、眠るまで結構な時間がかかりそうだ。
「レオン、おはよー。気持ちよさそうに寝てたよぉー」
「……おはよう、レオン。いい寝顔だったわね」
俺は気付けばベッド上で、エリスとティータを抱きかかえるようにして寝ていた。あ、あははっ。二人とも肩がはだけてるし、煽情的な表情をしてくるしで、こんなところを見せられたら眠気が一気に覚めてしまう。
「「ちゅー」」
おいおい、ここでおはようのキスは反則すぎるだろう。
「エリス、ティータ……お仕置きの時間だ……」
「「っ!?」」
あれから色んなことがあったのち、俺たちはいつもの工房へと向かっていた。なんだかどっと疲れたが、なんとも無機質な香りがするあの場所なら、そういうことが起きる心配も少ないだろうし大丈夫なはずだ。
「――あ、レオンの旦那っ、それに、エリスとティータのお二方、おはようございやす……!」
「お、おはよう、ルコ」
「何やら、すっきりした顔になってやすね? さては、男になりやしたか……!?」
「さ、さあな。な、エリス、ティータ?」
「うんっ、レオンね、激しかったんだよー!」
「……そうね。レオンが凄かったから私、びっくりしちゃった……」
「ちょっ……」
「な、ななっ!? 正直、羨ましいでありやす、ぜ、是非あっしも……」
ルコのやつ、何かよからぬことを想像しているのか耳まで真っ赤だ。
「い、いやいや、二人とも俺がたっぷりくすぐってやっただけだから……」
「な、なるほどっ。でもそれなら、あっしも頼みやすくなりやしたねえ……」
「あ、はは……」
ルコがいかにも悪そうな笑みを浮かべてきたので、俺は思わず後ずさりしてしまった。
「そ、それより、ルコ、例の武器は……?」
「あ、それならついさっき完成しやした!」
ルコがはっとした顔で工房に駆け込み、すぐに戻ってきたかと思うと、その手には左右に羽がつき、先端が鉤爪状になった杖があった。これが風刃の杖か……。
「この杖は周囲に
「へえ……」
「おもしろそー! ルコ、わたしも使ってみていい?」
「エリス嬢、どうぞでありやす!」
「わーい!」
「……あ、エリス、私にも使わせて」
「ダーメ、わたしが先だもんっ、ほらほら、羨ましい? ティータッ」
「むぅ……」
エリスがドヤ顔で風刃の杖を掲げながら、追いかけるティータから逃げ回ったかと思うと、すぐにつまらなそうに口をひん曲げて戻ってきた。
「変なのぉ……これ、何も起きないよー?」
「そ、そりゃそうでありやす。攻撃されるか、何かを切りたいと思うことが風刃の発動の条件でありやして……」
「切りたいって思うだけでいいのー?」
「そうでありやす。なんでもいいっすよ!」
「本当に、なんでもいいのぉ?」
「なんでもオッケーでありやす!」
「わかった! それじゃー、これ切る!」
「へ……?」
気が付くと、ルコの服があっという間に破けて、あられもない姿になってしまっていた……。
「ちょっ!? あ、あっしの服があぁっ!」
「「じー……」」
「み、見ちゃだめでありやす! エリス嬢もティータ嬢も、それにレオンの旦那もっ……い、いやん……!」
「…………」
思わぬハプニングが起きてしまったが、目の保養になったな……って、今日の俺はどうかしちゃってるようだし、ドルファンみたいに罰が当たらないようにしばらく大人しくしておくとしよう。
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