13.精霊術師、注目の的になる
「お、おい、一体何者なんだよ、炎の洞窟で新記録を作った【名も無き者たち】って」
「てか誰だ、こいつら? こんな連中、初めて聞いたぜ……」
「しかもF級パーティーだとよ! ありえねー!」
「はあぁ? それも、5分23秒で攻略って……信じられねえ。あの最強パーティーって噂の【堕天使の宴】が打ち立てた8分38秒より遥かに上だぞ!?」
「…………」
F級の依頼を攻略したということで、俺たちは報酬を受け取るためにギルドへ戻ってきたわけなんだが、やたらと冒険者たちから反響があったので驚いていた。
そういや、ギルドの一角にダンジョン掲示板ってのがあって、そこに様々なダンジョンの攻略タイムが表示されてるんだったか。一位から十位まで、記録を作ったパーティー名がそのランクやタイムとともに載る仕組みらしい。
パーティーメンバーの名前は公開されていないものの、ダントツの1位ってことで話題性が凄くて、俺はこっちの正体がバレやしないかと内心ヒヤヒヤしていた。
なんせ、炎の洞窟から帰還したタイミング的に、俺たちが例のパーティーじゃないかと疑われる可能性もないわけじゃないからな。俺とエリスの二人だけだから大丈夫だと思いたいが、冒険者の中には勘のいいやつもいそうだから安心できない。
「あのねあのね、それって私たち――もがっ!?」
「エリス、やめてくれ……」
俺は咄嗟にエリスの口を押さえつけた。危なかった……。
「はふう。レオン、どうして言っちゃダメなの……?」
「あのな……さすがに、俺とエリスの二人だけで最速記録を作ってるなんてことがバレたら、周りから変な目で見られそうだろ?」
「変な目って?」
「好意的な目で見られることもあるけど、なんか不正してるんじゃないかとか、そういう懐疑的な目で見る人もいるんだよ。もしそうなったら、どこへ行ってもいちいち好奇の目で見られて落ち着けなくなっちゃうぞ」
「そうなんだ……。じゃあ黙ってるね!」
俺は精霊術師だし、二人だけで攻略してることがわかれば、いずれエリスがオリジナルの無の精霊ってことがバレるのは時間の問題だと思える。その結果大騒ぎになり、冒険どころじゃなくなるのは目に見えてるからな。
どんなことが起こるのか想像すらつかないが、かなり面倒なことに巻き込まれるような気がする。噂では、王国が血眼で強者たちを探しているんだとか。その理由まではわからないものの、それが事実なら目をつけられるのは間違いない。
風の吹くまま、気の向くままに冒険できる今の状態が楽しいから、なるべくこれを維持していきたいんだ。
上位パーティーで散々雑用係をやってきた俺は、ギスギスした人間関係を嫌というほど見てきてるから余計にそう思う……っと、担当の受付嬢が戻ってきた。
「お待たせいたしました、【名も無き者たち】パーティーの方々――」
「「――しー!」」
「……コホンッ。失礼いたしました。シークレットでございますね」
「頼むよ」
「頼むの!」
「は、はい」
俺とエリスのプレッシャーに対して、気の強そうな受付嬢もタジタジの様子。
「それでは、Fランクの依頼である、フレイムタートルの甲羅50枚収集の件、こちらで確認いたしましたので、報酬の銀貨2枚、銅貨50枚をお渡しするとともに、名も無き――いえ、あなた方のパーティーはワンランク昇格となります」
「え、えぇ……? たった一度の攻略で昇格だって?」
最低でも3回は依頼をこなさないと昇格なんてできないのに。
「はい。当日に依頼を達成なされたというのと、ボス部屋の件もあったので、特別に今回の昇格となりました」
「あー、それでか……」
たとえFランクの依頼の中でも難易度の差はあり、期限は様々で、このフレイムタートルの甲羅を50枚集めるというのも三日までとなっている。
つまり収集するのに三日はかかると思われている依頼ってことで、それを当日にクリアした上、実力を証明できるものが他にもあるなら昇格するのは当然ってわけだ。
「これでEランクだな、エリス」
俺はカウンターから離れ、エリスに話しかける。
「うん! ねえ、レオン、これからどこへ行くのー?」
「ああ。どうしても行かなきゃいけないところがあってな……」
俺はいかにも深刻そうな顔を作り、エリスに近付けてみせた。
「そ、そんな顔してるってことは、凄く大変なところ……? どこなの?」
「それは――」
「ごくりっ……」
「――着いてからのお楽しみだ……」
「えー!? 教えて?」
「まだダメだ」
「もおお、レオンの意地悪ーっ!」
こんなことくらいでエリスが泣き顔になってるのが、俺にはなんとも微笑ましく見えた。
ただ、なんせ相手が精霊王なだけに、目に見えない周りの精霊たちからも話題にされた挙句、少しばかり顰蹙も買ってそうだな……。
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