第174話 making

 夜になった。


 ルゥラはまだ眠っている。布団よりもソファの方が案外眠りやすいのかもしれない。クッションとしての機能もソファの方が高いだろう。問題は落ちやすい形状になっていることだ。二つを向かい合わせでくっつければ、ベッドとしても充分に使えるかもしれない。


 部屋の中は静かだったが、今は特別静かだとは感じられなかった。外界に意識が向いていないせいだ。意識はいつもそこにあるが、すべての事象に対して等しく反応するわけではない。意識の向かう先を意識的に定めることができる。この構造を理解するのは難しい。たぶん、論理的に考えても堂々巡りになってしまう。


 フィルはまだ帰ってこなかった。随分と長い散歩のようだ。街中に散らばった皿を片づけているのだろうか。彼ならありえるような気がしたが、だからといって何だというのだろうと月夜は思った。


 料理をしようか、とふと思いつく。


 ルゥラはいつも何か食べたがる。一日に必ず三食とるというわけではないが、食べられるものがあれば食べたいと言うに決まっている。


 月夜はキッチンに向かった。電気を点けて冷蔵庫の中を見る。最近ルゥラに料理をしてもらっていないので、大した食材は見当たらなかった。


 アジの干物をフライパンで焼くことにする。フライパンをある程度熱し、その上に冷凍してあった干物を置いた。当然、氷が溶け、水が蒸発する音が聞こえる。点け忘れていたことを思い出して、頭上にある換気扇のスイッチを入れる。


 干物だけでは物足りないだろうと思って、同じフライパンの上でソーセージを焼いた。ついでに目玉焼きも作る。干物に卵が付着して一体となってしまったが、仕方がない。フライパンに蓋をして暫く待つことにする。


 野菜室からキャベツを取り出して、葉を二枚千切って残りをもとに戻す。千切った葉を水で洗い、まな板の上に置いて右から順に切っていく。それほどスピードがあるわけではないが、あまりにも遅すぎるわけでもなく、適切な速度で右から左へと縦に長い切れ端が出来上がっていく。


 フライパンから匂いが漂ってきて、蓋を開けて中を覗いた。水蒸気が立ち上る。コップに水を一杯注いで、熱されたフライパンに入れて蒸し焼きにする。


 ご飯を炊いていなかったので、炭水化物は食パンで良いだろうと判断した。袋の中から取り出せば良いだけなので、そちらはルゥラが目を覚ましてから用意することにする。用意するという表現が正しいのか否か分からないが。


 インターホンが鳴る。


 月夜はキッチンから出て機械に向かって応答した。

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