第18章

第171話 Talk with me !

 窓辺に立っていたルンルンは、そのまま身を滑り込ませるように月夜の部屋に入ってきた。


「何か用事?」月夜は質問する。


「別に用事なんてないさ」ルンルンはゆらゆらと首を振り、そうしてまた顔を上げて月夜を見る。「また来るって言ったから、また来ただけ」


 今はフィルがいない。彼女に何らかの攻撃をされたとき、どのようにすれば良いかと月夜は考えていた。しかし、効果的な手段が思いつかない。またルゥラに手を出すつもりだろうか。


「この部屋、全然片づいてないじゃん」周囲を見渡してルンルンは言った。「駄目だなあ。来賓があるときはお持てなしの準備をしろって、教わらなかったの?」


「貴女が荒らしたのだから、貴女が片づけるべき」


 月夜の言葉を聞いて、ルンルンは可笑しそうに笑った。両手を叩く。シンバルか何かを持っているみたいだ。


「何それ、ジョーク? 面白いねえ。漫才師にでもなるのかな? あの黒猫とツインでやれば、案外受けるかもしれないよ」


 ルンルンはその場にしゃがみ込み、部屋に落ちている皿の破片を拾い集める。それを両手で抱えると、瞬時に手と手の間に隙間を作った。音を立てて破片が床へと零れ落ちていく。


「暴れたのは私じゃないからね」落ちて形成された破片の山をじっと見つめながら、ルンルンが言った。「あの子が暴れたんだ。見ていただろう、お前も」


 外から見ればたしかにそうそう見えた。しかし、それは彼女がルゥラに憑依していたからだ。


「ルゥラのせいではない」


 月夜がそう言うと、ルンルンは目だけでこちらを見た。鋭い目つきだが、不思議と恐怖は抱かなかった。最初に会ったときよりも幾分慣れたのかもしれない。


「お前、物の怪のこと、何も知らないな」ルンルンは立ち上がって腕を組む。


「あまり知らない」月夜は素直に答えた。


「あいつらと一緒に暮らしているというのに」ルンルンはまた首を振る。そのままとれてしまいそうな勢いだった。「まあ、あの馬鹿猫が相手じゃ仕方がないな」


「フィルは馬鹿ではない」


「その発言が馬鹿だ」ルンルンが言った。「お前、何考えて生きているんだ」


 質問の意味が分からなかった。第一、それが質問なのかどうかも分からない。


「どうして、ここに来たのか、説明してほしい」月夜は要求する。「ルゥラは、今下で眠っている。彼女に手を出してほしくない。話せることがあるなら、話してほしい」


「話して分かるならね」

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