第172話 not to want
ルンルンは部屋の中をゆっくりと歩き回った。何をしているのか分からない。もちろん、歩き回っているのだが、それが真実ではないだろう。
真実?
真実とは何か?
楽園に成る二つの果実のことか?
「死んだものたちが物の怪になるんだ」突然立ち止まってルンルンが口を開いた。「いわば、再利用という感じだな」
「再利用?」
「物の怪の目的はお前を殺すことだ」ルンルンは月夜を見つめる。案外鋭い目つきをしていたが、気圧されるほどではなかった。「忘れたのか? お前の傍にいる黒猫や、あの少女は、お前を殺す機会を窺っているんだ」
たしかに、それは小夜から聞いた話と一致している。しかし、フィルはもともと小夜の傍にいたわけで、そうであるのなら、小夜がフィルを自分に預けたり、危険が迫る度に忠告をしてくるのはおかしい。敵の陣営に所属する者が塩を送っていることになる。
「フィルはそんなことをしないはず」月夜は反論した。「彼は物の怪かもしれないけど、少なくとも、私を殺そうとはしていない」
「まあ、あいつは少々特殊だからな」ルンルンは顔を背ける。「だとしても、あの少女は違う。お前を殺そうとしている。それは間違いない」
「貴女の目的は?」
月夜はルンルンを見つめる。意識的に見つめようとしたわけではなかったが、ほかに視線を向ける対象がなかった。
「お前には関係がないな」
「関係があるかないかは、あとにならないと分からない」
「では、少なくとも今はない」
「後々関係があると思うかもしれない」
ルンルンはまたしゃがみ込む。皿ではなく、今度は床の表面に触れた。それから壁にも触れる。随分と傷がついていた。以前彼女が暴れたせいだ。
「お前を殺すことではないな」
「では、何が目的?」
「物の怪の力を奪うことだ」ルンルンは不敵に笑う。以前言ったことの繰り返しだった。「そのために、あの少女にも取り憑いた。まあ、上手くいかなかったけど。ただ、一度で成功しなければ、何度も繰り返すだけだ」
「ルゥラには手を出さないでほしい」
「なぜ? あいつはお前を殺そうとしているんだ。お前にとっても悪い話ではないだろう」
自分がどの程度ルゥラのことを知っているだろう、と月夜は自問する。答えは出なかった。しかし、彼女が自分を殺そうとしているようには思えない。
そう思いたくないのだ。
「まずは、誰かの身ではなく、自分の身を守ることだな」
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