第130話 nothing important
鳥の鳴き声。虫の鳴き声。
お腹が鳴る音。
「月夜は食事をしないんじゃなかったっけ?」
真昼が尋ねてきた。どうやら彼は耳が良いみたいだ。
「しないわけではない」月夜は答えた。「あまりしない」
「今日は食べたの?」
「食べた」
「へえ、珍しいね」
「ルゥラに食べさせられた」
「ルゥラっていうのか」そう言って、真昼は少し笑う。「なるほど。彼女らしい」
「どういう意味?」
「いや、別にどういう意味でもない。単なる感想というか」
真昼はまたお茶を飲む。
彼はどこにいるのだろうと、真昼に会う度に月夜は思う。今、目の前にいることは確かなのに、そこにいないように思える。手を伸ばせばきちんと触れられるし、会話もできるのだから、いることは間違いない。
しかし、存在というのはよく分からない状態だ。その人の身体が見えていれば、それは存在することになるのだろうか? 物理的に触れられる必要もあるだろうか? 声が聞こえる必要もあるだろうか? 見えていて、触れられて、声も聞こえていても、その人がそこにいないように、感じられる、こともある。それは、その人が自分の話を聞いていなかったり、ぼんやりしていたりする場合だ。
存在とは何か?
「僕が片づけられる皿は、せいぜい十数枚程度だから、あとは小夜に任せることにしよう」真昼が呟いた。彼もフィルと同じで、いつも一人で話しているような感じだ。「そのルゥラという子は、君に何か悪いことをしてくるの?」
「悪いことかは分からないけど、私にご飯を食べさせようとしてくる」
「なるほど。まあ、それくらいなら大丈夫かな」
「何が?」
「害と呼ぶほどではないだろう」
「害とは?」
「危害の害」
ルゥラは今は二階の自室で眠っている。明日はどうなるだろうか。いつまでこんな生活が続くのだろう。別に不満があるわけではないが、ある程度の期間が分からなければ、対処のしようがないというのが正直なところだ。洋服を買ってやらなければならないし……。
「さて、じゃあ僕はそろそろ行こう」
真昼は立ち上がって、月夜を上から見下ろした。
「また、会える?」月夜は少し首を傾げる。
「うん、きっと」
視線が交錯する。
「何?」
「いいや、何でも」月夜は首を振った。「本当は、もう少し一緒にいたかった」
「へえ、君の口からそんな言葉が出てくるなんて、珍しいね」
「たしかに、統計的に頻度が小さいから、珍しい」
「その言い方は、いつも通りだね」
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