第14章

第131話 装飾

 ルゥラと出会ってから二週間が経った。


 二週間も一緒にいると、だんだんとその状態が普通になってくる。月夜も生き物には変わりないので、慣れるという状態に至る。ルゥラの方はとっくに慣れているみたいだったが、フィルだけはまだあまり馴染んでいなかった。少なくとも、月夜にはそう映った。


 フィルは気紛れだ。しかし、それは猫だから気紛れなのではなく、フィルだから気紛れなのだ。


 月夜が学校に行っている間、ルゥラは家で待っている。けれど、どうやら彼女も気紛れのようで、家で待っているだけでは飽き足らず、色々な場所に足を運んでいるみたいだった。鍵を渡していないから、開けっ放しにされるのは困ると思ったが、ルゥラは施錠されたドアをそのまま通ることができるらしい。周波数が大きいからだろうか。


 月夜自身に関しては、学校に通う生活が続いているだけで、特にそちらの方に変化はなかった。毎日授業を受けて帰る。しかし、夜まで学校に残ることはなくなった。ルゥラが待っているからだ。月夜が夜まで学校にいると、必ずルゥラが迎えにくる。どうやら、家で一人でいるのが不満みたいだ。実際に、不満だ、と言われた。いや、音として「fumanda」と言われたわけではないが、そういう趣旨のことを言われたという意味だ。


 相手に不満だと言われれば、そうでないようにしようと考える。それは月夜に限ったことではないだろう。人は知らず知らずの内に他者から影響を受ける。たとえ相手が嫌いでも、必ず何らかの配慮をする。そうすることで自分の身を守れると知っているからだ。あるいは、自他の距離を適切に保つことが、人類全体に恩恵をもたらすという理屈かもしれない。


 何でも良かった。


 月夜はルゥラが嫌いではなかったし、彼女と一緒にいるのも良いと感じていた。それは、フィルや小夜と一緒にいるとき、それに真昼と一緒にいるときに感じるのと同じ感情だ。


 好きと呼ぶのだろうか。


 好きでないものが自分にはあっただろうか、となんとなく考える。


 分からなかった。


 きちんと探せば、好きでないものは見つかるかもしれないが、嫌いなものとなると、見つかるか分からない。


 自分の感情に名前を付けたがるのはなぜだろう。


 ラッピング?


 たしかに、それなら素敵だろうと、月夜は思う。

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