第62話 How ?

「物の怪は、私を殺すことが目的なんでしょう?」


 月夜は小夜に尋ねる。小夜はフィルとじゃれ合っていた。合っていたというより、彼女が一方的にじゃれているのだが。


「ええ、そうです」


「それなら、今私が殺されておけば、問題は解決するのでは?」


 小夜に一番訊きたいのはそれだった。しかし、小夜は表情を変えずに淡々と答えるだけだった。彼女にとっては想定していた質問の一つなのかもしれない。


「どういう視点から見るかによって、問題は異なります。当然ながら、物の怪たちからすればその通りです。貴女を殺すことが目的なのであれば、貴女を殺してしまえば、万事解決です」


 小夜は眠ろうとしているフィルを両手で掴み、そのまま無理に上へと持ち上げる。フィルは抵抗しようとはしなかったが、不機嫌そうな表情になった。


「ですが、私たちの立場から見れば、そうではありません。私たちの目標は、そうですね、あえて物の怪たちと対比させる形で言えば、貴女を生きながらえさせることです。ですから、貴女に死なれてしまうと、問題の解決ではなく、問題の肥大化に繋がります」


「小夜がここにいるのは、私が殺されないようにするため?」


 月夜の質問を受けて、小夜は少し目を細めて笑った。


「そのためだけではありません。これも私の仕事の一つだからです。ただし、リソースの多くはこの問題に割かれています。それくらい重要な任務ではあります」


「仕事とか、任務ということは、それは誰かから与えられたものなの?」


「うーん、どうなんでしょう……。……与えられたというのは違うかもしれません。そうせざるをえないので、私がやっていると言った方が正しいでしょうか。だから半ば自主的にやっていると言っても差し支えありません。仕事とか任務とかと言ったのは、そういう言い方の方が格好良いと思ったからです」


 やはり、自分は生きる方向で考えなければ駄目らしい、と月夜は現状を理解する。そして、そうなると、それは物の怪を殺す方向で考えなければいけない、ということをも意味することになる。


「物の怪は、どうやって殺すの?」


 月夜の質問に対して、小夜は少し首を傾げて答えた。


「私にも分かりません。物の怪を殺したことがないので」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る