第3章
第21話 反対
休日の朝、月夜が自室で本を読んでいると、階下でインターフォンのチャイムが鳴った。
月夜は、基本的に休日も平日と同じようなサイクルで動く。サイクルというのは、生活を構成する最低限の枠組みについて適用できるもので、学校に行く平日と同じように、朝から夕方まで勉強したりはしない。ただし、まったく勉強しないということもなかった。その週の復習くらいはする。
フィルがまだ眠っていたから、次のチャイムが鳴る前に、月夜は階段を下りて玄関に向かった。
朝の冷たい階段。
玄関の二段構えの鍵を解錠して、月夜はドアを開ける。
最初、誰もいないと思ったが、暫くすると、ドアの陰から小柄な少年が姿を現した。彼は月夜の前に立って不敵な笑みを浮かべると、少しだけ首を傾げた姿勢で固まった。
「おはよう」
月夜が挨拶をしても、彼は何も答えなかった。代わりに、月夜の方へそっと近寄ると、そのまま背後に手を回して、彼女を正面から抱き締めた。
「何?」
抱き締められたまま、少しだけ顔を後ろを向けて、月夜は尋ねる。
髪の接触。
摩擦。
「いや、別に」少年は答えた。「久し振り」
「久し振り、の基準は?」
月夜がそう尋ねると、少年はもとの姿勢に戻って、また正面から彼女を見据える。
「元気そうでよかったよ」
「元気、とは?」
少年をリビングに招いて、月夜はキッチンでコーヒーを淹れた。手で淹れることはしない。メーカーのドリッパーに粉をセットして、自動で注がれるのを待つだけだ。
なんとなく、リビングに戻らないで、コーヒーが入るのをその場で待つ。
月夜の家に訪ねてきた少年は、真昼という名の知り合いだった。彼は、彼女の知り合いで、けれど、いつから知り合っているのか、月夜は覚えていない。それだけではなかった。月夜は真昼がどういった存在なのか、まったくといって良いほど把握していない。もちろん、自分との関係性については理解している。そうではなく、世間一般、社会一般の中での彼の位置づけというものを、月夜は知らなかった。
真昼には不明なところが色々ある。もしかすると、それは月夜も同じかもしれないが、それ以上に分からないところが多い。でも、彼は月夜の数少ない知り合いで、そして、フィルと同様に親しい間柄だった。
いや、それも違うか……。
親しい間柄、ではない。
その表現は間違えている。
では、どのように正すべきか?
数秒間考えてみたが、適切な表現は思いつかなかった。
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