強姦合法化……したけど、なんだかんだいい人ってのはたくさんいる。

小説大好き!

第1話

「きゃー!!」




 女性の悲鳴が響き渡る。


 通勤中の人が大勢いる中、悲鳴に驚き振り向いた先には白昼堂々女性を襲うとしているチンピラの姿。


 明らかに異様な光景だ。本来なら即刻通報され、警察が飛んでくるところだろう。




 しかし、誰も携帯を取り出そうとはせず、通報しようとする素振りすら見せない。


 その理由は一週間前、突如施行された法律にあった。






 『強姦合法化』


 相手の意志に関わらず無理矢理襲い掛かることを合法とする。




 文字通りの意味だ。


 少子高齢化が深刻化していき、国として成り立つ最低人数のギリギリまで子供が減った日本は、遂に頭のおかしな法令を作ってしまった。




 この法律の影響で、今まで残忍な性格を奥底に飼っていた人間は、これ幸いとばかりに女性に襲い掛かり始めた。


 最初の頃は誰もがすぐに警察に連絡をしていたが、警察は国家の犬。法律が許可したことを咎めることはできない。




 誰もが手をこまねいていた。


 明らかに狂っているこの法令で、日本は終わるかと、世界各国の人間、そして国内の人間は思った。




 ――しかし。




「ちょっ、そこの君、やめてください!」




 女性を襲おうとしているチンピラに向かって、通勤中の若い男が声をかける。


 チンピラは、「ああ!? 文句あるのか!? 法律が許可出してるんだぞ!!」と若い男に凄み、そのまま女性に覆いかぶさろうとする。




「本気で言ってるんですか!?」




 声をかけた男は食い下がる。


 無視しようとするチンピラに、「これが最後です。本当にいいんですね?」と最終確認をした。


 あまりに鬱陶しく思ったチンピラは「いいつってんだろ! 邪魔するな!」と男に怒鳴る。




「みなさん、聞きましたか! この男はいい・・らしいです!」




 若い男が唐突に大声を上げ、周囲に喧伝するように叫び始める。


 チンピラは一瞬驚くが、自分には関係のないことだろうと、すぐさま女性にのしかかろうとする。




 ――瞬間のことだった。




 突如頬を殴られたチンピラが宙を舞い、女性から無理矢理距離を取らされた。


 あまりにいきなりの事にチンピラが目を白黒させる。


 軽い脳震盪にふらふらしながら起き上がり、先程まで自分が立っていたところを見ると、自分が襲ってた女性の前で、若い男が殴り上げた直後のような格好で残心していた。




 チンピラは自分が男に殴られたことを悟る。


 チンピラを心配してか、駆け寄ってくる通勤中の“男達”に向かってチンピラは「暴行だ! 警察を呼んでくれ!」と叫んだ。




 それを聞いた周囲の男達の数名が携帯を取り出す。


 それを見たチンピラは、勝ち誇ったように若い男の方を見て、「へっ、人の邪魔をするからこうなるんだ」と吐き捨てた。




 ――直後。




 後ろから唐突な衝撃とともに、後頭部に痛みが走る。


 驚いて後ろを見ると、先程寄ってきていた男達の中の一人が手に持っていた鞄を振り下ろしたような態勢をとっていた。


 殴られたのだろう。




「――ッ!? テメェ何しやが……」




 ふと。


 周囲を見たチンピラが視界に捉えたのは、先程自分に駆け寄ってきた男達。


 チンピラを取り囲む・・・・ように周囲に立つ男達だった。




 これが意味していることに気づいた男は、暑さ以外の理由で汗をだらだらと流す。


 焦りながらも、冷静な部分で、「暴行を働けば警察に行くから大丈夫」などと思っていると、今チンピラの後頭部を殴った男が問いかける。




「反省する気はありますか?」




 先程若い男にされたような質問に、チンピラは拍子抜けする。


 ちらりと若い男の方を見ると、先程チンピラが襲おうとしていた女性を介抱していた。


 もうあの女は無理だな、とチンピラは思いながら、目の前の男に答える。




「ハッ、反省なんかするかよバー……」




 最後の「カ」を言う前に、再び後頭部に強い衝撃。


 今度は振り返るまでもなく自分が殴られたことがわかった。


 一切の躊躇もなさそうなその行動に、チンピラは驚く。




「お、お前ら正気か!? 暴行は警察行きだぞ!?」




 先程女性に「暴行」を働こうとした人間のセリフとはとても思えないが、強姦は合法になったのだ。だから、誰も文句を言うことができない。


 しかし、代わりとばかりに先程殴った二人の男とは別の男が、座り込んでるチンピラを軽く蹴りつける。




 さらに別の男性が、「反省する気は? もう強姦なんてしない?」と問うてくるが、チンピラは尚も否定する。それを聞いた男が、チンピラに回し蹴りをかます。




 その後も数分間似たようなやり取りが続き、そのたびにチンピラは殴られ続けた。一回一回の攻撃はそこまで強いものではないが、取り囲まれ殴られ続けるという状況に加速度的に恐怖心が湧き上がってくる。




 チンピラは何度か逃げ出そうとしたり、反撃しようとするが、すぐさま数人がかりで取り押さえられ、再び真ん中へと押し戻された。




「何やってるんですか!?」




 混乱がピークに達していると、やっと、先程男達の数名が呼び出した警察が来た。


 チンピラは、男達の足の隙間から警察の姿を認めて、ようやくここから出られると安堵する。


 しかしそれは、迎えが来た女性を見送ってチンピラを取り囲む集団に加わっていた若い男の発言で絶望へと変わった。




「これは強姦・・です」


「……なるほど、そうでしたか。だったら、終わるときはお伝えください」




 そういって警察はその場に待機する。






 『強姦合法化』。それは、相手の許可を取らずとも無理矢理襲うことを合法とする。


 言わずとも知れた法律だ。


 しかし、強姦は一種の暴行である。強姦を良しとすれば、暴行も良しとするととられかねない。




 そこで、取り締まる暴行の度合いは、警察に一任・・・・・されていた。


 さらに、強姦は男女を問わず、無理矢理襲われる人を指す。


 さらに言えば、それが異性間だろうと、同性間・・・だろうと関係はない。






 チンピラは、若い男の発言の意図を読もうとし、十数秒かけてそのことに気づいた。


 その間は、周囲の男は問いかけることも殴りつけることもなかった。


 まるで、チンピラが理解するのを待つかのように。




 そしてチンピラは自分が嵌められたことに気づく。




 先程から徐々にいたぶられる感覚や、警察がすぐに助けてくれなかったことで、既に恐怖心はピークに達していた。




 その上で、この暴行が終わることがないと気づいたチンピラは、恐怖心が決壊する。




「お前ら嵌めやがったなあぁぁぁぁ!?」




 発狂したチンピラは目の前にいる男の一人に殴りかかろうとする。




 ――これが、男たちの意図だった。




 すぐに間に警官が割って入り、チンピラが殴りかかった勢いで腕を引き、チンピラを地面に押し倒す。




「午前八時十五分。暴行の現行犯で逮捕する」


「ああ!? あいつらの方が俺を殴ってたじゃねぇか!」


「すみません、それは私共の裁量なので」






 政府がトチ狂った法律を施行した後、日本は地獄になると、国内国外を問わず誰もが思った。




 ――しかし、予想に反して、地獄はただ一日も訪れなかった。




 理由は一つ、それぞれで自衛をしたからだ。


 女性は別に、守ってくれる人がいないわけではない。家では家族、学校では友人、そこら辺の道にだって、善良な市民が確実にいる。




 法律が施行され、これ幸いと女性を襲おうとした人間は、悉くその善良な市民に体を張って止められた。


 さらに、警察も公務員とはいえ、それぞれに正義を持っており、何も国の言うことを必ず聞くわけではない。




 暴行と強姦と区別を任されたのをこれ幸いとばかりに利用。強姦に働いた暴行は“暴行”、強姦から守る為に働いた暴行を“強姦”として取り扱って、それを暗黙の了解とした。


 ちなみに、男たちがチンピラをボコボコにしなかったのは、傷つけるのを嫌がったからである。


 複数で取り囲んでいるため、本気で殴らなくても無力化できるからだ。




 各県や様々な市町村でも、影響が遠い地方ほど早くに、強姦を禁止する条例が作られ、即刻施行。


 これによって、女性に多少の不便や、傷つく人が出ることもあったが、最後の一線を越えられる人はほとんど出ずに事態は収束に向かい始めた。




 さらに、今回の政府による横暴な政策は、日本に一つの波紋を起こした。


 今まで政治に一切の関心を示さなかった人たちが、政治に関心を持ち始めた。




 この事件により、内閣不信任案が出され、解散からの総選挙が始まった最中、多くの日本人が政治に興味を持ち始め、政治の仕組みや、誰がどういう影響を持ってるのかを挙って調べ始めたのだ。




「悠人、お前は誰がいいと思う?」


「俺は二宮さんかな」


「は、絶対相模さんがいいだろ!」




 そんな会話が選挙権の有無にかかわらず学校や町中の公園で聞こえるようになり、日本中が政治というものを重要視するようになった。


 結果、その時の衆議院総選挙は投票率が98%と過去最多の記録を出し、そのほか市区町村選挙でもほとんどの地域で過去最多の投票率をたたき出した。




 それだけでは終わらない。


 この選挙で決まった内閣によって、即刻強姦合法化が取り消されたが、しかし少子化の問題は一切解決していない。




 そこで、政府は子育てをする女性に対して優しい法案を次々と提出。さらに男女という考えを取り払い、子育てを男性でもできるように国主導でセミナーを各地で開き、さらに働きたい女性のために子供の保育施設などの増設も進めていった。




 それら国の尽力により徐々に特殊出生率は伸びていった。


 しかし、そのままこれを放置すると現在の中国の二の轍を踏むのは自明の理。


 政府は子供の数を調整するように様々な法案を作り始めるのだった。




 同時に、別の変化も起きていた。


 性犯罪による被害者がピタッとやんだのだ。


 理由は明白、性犯罪を起こす人間や、それの予備軍があった人間が挙って検挙されたからだ。




 その人たちは強姦合法化によって甘い蜜に吸われるかの如く女性を襲おうとした。


 それを見過ごさなかった善良な市民は彼らを一斉検挙、そのまま全員が刑務所へと放り込まれた。


 よって一時的に性犯罪が一切起こらなくなり、日本はその点に関して世界一安全な国となった。




 専門家曰く、また時間が経てば現れるだろうとのことだが、同時に一定期間は性犯罪者が現れることはないだろうとのことだった。






 こうして、頭の狂った政府が出した一つの法律は、世界中の誰もが思った、日本を地獄にするという予想を悉く覆し、それどころかすべての人間の度肝を抜くような大躍進を生み出したのであった。


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強姦合法化……したけど、なんだかんだいい人ってのはたくさんいる。 小説大好き! @syousetu2

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