第8話 リリアの心境
俺は風呂場から出てきたリリアを舐めるように眺めていた。
「あまり見ないでください」
「あ、あぁすまない。想像と全然違ったもんでな。もっとこう…な?あぁいう感じかとおもった」
(語彙力無くなってんじゃねぇか俺! いや、砂埃まみれでボロ雑巾みたいなローブを被った少女が風呂入ったら美少女になって出てきてみ? 思考全部吹っ飛ぶわ)
一人で脳内セルフ突っ込みをしながら、一旦落ち着くために深呼吸をはさんだ。
「…それで、聞きたいことってなんですか。私が知る範囲なら、助けていただいたお礼にお話ししますけど」
リリアはベッドに腰掛けながらそう話した。しかしまだ俺のことを信用しきっていないのか、かなり言葉を選びながら話しているように見えた。
(おっとそうだった。この世界について色々聞きたいことがあるんだった)
「そうだなぁ…まず何から聞こうか悩ましいが、このギャンブル闘技場ってのはなんなんだ」
俺はまず、この国に入る前に見たポスターについて聞くことにした。
甲冑をつけた男は『参加するなら気をつけろよ』と言っていた。なにか手がかりが掴めるかもしれない。
「知らずにここへ来たんですか? ……ここ、ミラガライド王国の公式闘技場は全三回戦のトーナメント式になっていて、優勝者には多額のぺリスが進呈されるようです。……これは噂ですが、優勝者はぺリスを貰った後毎回行方不明になるんです。あまりの大金だから、狙われないように隠居でもしているんでしょうか」
少女は口を尖らせながら、少し羨ましそうに話した。きっと今まで大金は手にしたことが無いのだろう。
(行方不明か……参加してやろうかと思っていたが、うかつに参加するのは危険か?)
俺は甲冑男の言ったセリフに少し繋がりができたと思った。
「そうか。行方不明は怖いが、俺はこの世界でギャンブルで一番になろうと思ってるんだ。何かいい方法はないか?」
俺のこの世界での目標は世界一のギャンブラーだ。このギャンブルが蔓延る世界でどうすれば手っ取り早く一番になれるのかが気になった。
「なら闘技場で優勝するのが一番早いと思います。ギャンブラーにとっての登竜門みたいな感じですし」
リリアはこの話にあまり興味がないのか、ベッドで足をプラプラさせながら視線を合わさずに話している。
(ふむ…ならその闘技場、参加してみるほかないな)
リリアが言うには、やはりこの闘技場トーナメントがこの国で一番有名らしい。
このトーナメントで優勝することが一番の近道なのかもしれない。
「なるほどな~。じゃ、その闘技場に参加してみるか!」
「参加するんですか!? 危険だと思いますけど……」
「実は俺、元世界一のギャンブラーだったんだ。以外と自信あるんだぜ?」
(そう、元世界一だ。悲しいが俺は今や違う世界にいるんだからな……)
そう話すとリリアは少し興味を持ったのか、俺の方に視線を向けていた。
「そうなんですか……? その割にはステータスとか低かったですけど……」
「忘れてた! ギャンブルで勝つとステータスが上げられるって言ってたんだが、何か知らないか?」
俺は思い出したかのようにリリアに問う。
「それでしたら、ステータス鑑定した後に貰った紙で割り振ることができると思いますけど…」
(あれか! なんかよくわからない茶色の厚紙みたいなのを貰っていたんだった。観光のパンフレットかなんかかと思ってたぜ)
酒場でステータス鑑定をし終わったあと、受付の美人お姉さんから茶色い紙を渡されていたのを思い出した。
てっきりミラガライド王国観光パンフレットかと思ってポケットに乱雑に入れていた。
「あぁこれか。これをどうするんだ?」
俺はポケットの中でくしゃくしゃになっていた茶色いカードを取り出した。
「手をかざすと色々浮かびがってくるはずですけど……」
言う通りに俺が手をかざすと、水色の文字が色々浮かび上がってきた。
リリアはカードをベッドから覗き込むように首を伸ばしていた。
「おぉ……本当だ。ここで色々割り振れるってことか」
【レベル3 力1 持久力1 魔力1 運気1 スキル 未来予知 残りポイント20】
「運気がギャンブルにおいて重要って話だったが、上げておいた方がいいのか?」
「う~んと確か……差が開けば開くほど効果を発揮する……とかだったような……」
顎に小さな手を添えながらリリアは話す。
(なるほど、運気1対100なら運勝負では不利ってことね)
リリアが言うには、運に関して差が開けば開くほど運勝負で効果を発揮するらしい。
コイントスで大男が言っていたのはこれのことだ。
「正直ただの運勝負なら未来予知でなんとかなりそうだし、魔力にでも入れてみるか」
【レベル3 力1 持久力1 魔力21 運気1 スキル 無し 残りポイント0】
俺は指で魔力の文字の横にあるプラスボタンを押し、全てのポイントを魔力に割り振っておいた。
「ありがとう。色々聞けて助かった。今日はもう遅いし寝ようか。」
「……はい」
会話を終え俺もシャワーを浴び、さっぱりとした気分でベッドの中にダイブした。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
電気を消して十五分くらい経った頃だろうか。窓から隙間風が入る中、リリアが俺に話しかけてきた。
「今日は本当にありがとうござました。人にここまで優しくされたのは初めてです」
「別に気にすんなよ。明らかにお前、あそこにいて楽しくなさそうだったしな」
リリアはあのグループにいて幸せそうではなかった。虐待こそ受けていなかったものの、雑用を押し付けられているのを俺は見ていられなかったのだ。
「それはそうですけど…なぜ助けてくださったんですか?」
「なんでって……楽しくなさそうだったって理由じゃダメか? ギャンブルは楽しくあるべきだと俺は思ってる。一つの賭けに一喜一憂して、心が昂るのを楽しむべきものなんだ。あの時のお前に、そんな様子は感じ取れなかった」
「そうですか……」
布団で口元を隠し、少し涙ぐんだ声のような、その中に嬉しさの感情も混じっているような声だった。
少し間がを置いて、リリアが決心したような声色で話した。
「明日の朝、
そう言い残し、リリアはすやすやと寝息をたて始めるのであった。
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