第105話 蒸し暑い



こんにちわ、男装して美少年官僚になっている董青ちゃん14才です。


うちの信者さんを襲撃した盗賊をとっちめようと河北きたから江南みなみははるばる二三千里の彼方、長沙チョウサまでやってきました。


なんか行き掛かりで盗賊については孫堅さんが討伐を命じられてしまったので、私はいつもどおり現地の商人さんに接触します。


「おまんら、まっことよう来ちゅうが、歓迎するがかよ」

「……あ、ありがとうございます」


顔の浅黒い人の好さそうな商人さんが挨拶をしてくれます。


これってあれ?いにしえの楚国ソのくにの言葉でしょうか。

挨拶はともかく、商談になるとどぎつい荊州ケイしゅう南部なまりで聞き取りが……。


「……公明くん!まず通訳探しましょう!」

「まっすぐそうですね?!」


珍しく慌てた感じの公明くんと顔を見合わせてうなづき合いました。


いやぁ、ちょっと一か月ほど南に移動しただけで言葉が通じにくいとか……。


いままで洛陽長安の周りの司隷しゅとけんと故郷の涼州とかでは問題なかったのですが……。


しっかし蒸し暑いですねぇ……まだ夏にもなってないのに。


 ― ― ― ― ―



旅の馬商人として最初の目的は馬を売ってお茶を仕入れることです。


できれば盗賊に奪われた銭も取り戻してその分も仕入れに充てたいところですが。


「おっ、馬を売るのか、じゃあ俺に売ってくんねぇか。いや、北から連れてきた馬が結構潰れちまってよ」


販売先に悩んでいたら、孫堅さんがまとめて買い上げてくれました。


せっかく騎兵を涼州からつれてきたのに、暑くて水も違うせいか結構病死したんだそうです。

病死が戦争で失うより多かったとか。


うーん、水が豊富なのに簡単にはいかない土地ですね……。




さっそく長沙で買ったお茶を味見と行きましょう。


じっくり煮出してお湯が奇麗な緑色に染まり、馥郁いいかおりとしたお茶の香りが立ち込めます。


「はぁ……いや、やっぱりお茶は美味しいですね!」

「僕はほとんど飲んだことないですけど、いいですね」


公明くんも熱いお茶をすすってほっとした表情です。


あれ、公明くん……そっか。

董家でもお茶はほとんど私用だったし、基本高級品でしたからね。



「ところで色がバラバラですがこれは?」


茶商人さんに聞くと「これは時間がたつとこうなる」と言います。

ふむ、発酵ですね。長い間置いておくと紅茶になるかも?


「なるほど、すぐ飲むやつはそのままで、遠くに運ぶやつは火入れして乾燥させてるんですね」


というかお茶の作り方はよく知らないんですが、なんか揉んでから焙煎してたような気がします。

発酵具合を変えるとか、いろんな作り方してもいいかもしれないですね。



 ― ― ― ― ―



さて、お茶を確保したので長沙の調査と行きます。


孫堅さんのために兵糧の確保とか考えたんですが、米はお役所に十分あったようで必要なさそうでした。

残念。




さて、江南で豪族の力が強い理由です。

これは長沙城の外に出るとすぐわかりますね。



長沙城からある程度離れると、大きな屋敷の周りに広大な水田を確保した豪族の土地があちこちにあります。

自作農の良民の家やその水田は圧倒的に少ないです。


これは、もともと漢人があまり住んでいなかった長沙などの江南の土地を開発したのが財産や奴婢どれいを多く持つ豪族たちだからです。


江南で栽培している稲は水田で作るのですが、その水田を拓くためには水路を作る必要があります。一家族でできることではなく、豪族がその財産や奴婢どれいを使って新田を開発、そこに移住者を呼び込んで使用人や奴婢どれいとして使っているわけですね。


沼にそのまま籾をばらまいたり、小規模な水田を作っている農民の家はありますが、やはり収穫が少なく貧乏で、数も多くないという状況です。


土地を開拓したのが豪族たちのため、豪族の力が強く太守ちじでも頭が上がらなくなるわけですね。



河北きたでも豪族は強いですが、こちらは過去からずっと漢人が住んできた土地で、政府が水路を作ったり新田開発を主導した関係で自作農が比較的多く、太守が何とか対抗できているわけです。ただ、分割相続で没落する自作農が増えてきているので遠からず豪族の力が圧倒すると思います。



……江南の開発を豪族に任せずに政府が主導して自作農を増やせばいいのでは??

ちょっと朝廷は地方の内政に関心が低すぎますね。



じゃあ私がやりますか!


「公明くん、ここは河北の難民さんを大勢こちらに移住させて新田開発しましょうか。土地も水もまだまだ余ってますし同じ資金でより効果的なのはこちらだと思いますよ!」

「……難しいのではないでしょうか」

「え?」


公明くんは少し考えて、騎兵信者さんたちを指さして言います。


「こっちは暑いので」


蒸し暑さに耐え切れず、ぐでぐでと倒れこんでいる人と馬が転がっていました。



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