第95話 (閑話)趙忠その1
※趙忠視点です
中平三年。年が明けてすぐ。
涼州反乱軍の総司令官の
「
「ははっ、
それを命じた漢の皇帝はどことなく嬉しそうだ。
というのも今回、涼州の
劉弁はもともとどことなく頼りない子供で、財政や政治についていくら教育してもまともに意見も言えないような引っ込み思案なところがあった。
それが最近は急に政治に興味を持ち出し、自ら志願して後宮の外に出ていろいろ提案してくるようになった。
しかも宮殿の修復を安くすませる案を出すなど、財政についても配慮している。
現皇帝の
普段は貪欲に銭を集めさせるが、それはいざというときに使うためであるとも考えており、黄巾の乱に際しては貯蓄を全部吐き出して早期に決着させることができた。
劉宏にとってそれは成功体験であり、いざというときに備え、銭を集めるというのが正しい政治だと思っている。
それを最近急成長した息子も理解してくれているのである。
父として素直に嬉しいのだろう。
劉弁を支持する
― ― ― ― ―
趙忠は早速、弁皇子の屋敷に赴いた。
人事のすり合わせをするためである。
当然ながら御年14の若い皇子が具体的な人事案など持っているわけもないが、どういう風にしたいかぐらいは聞いておく必要がある。
弁皇子は洛陽城内の
そして特に仲がいいのが董家の娘で、よく董家屋敷に遊びに行っているようだ。
問われた弁皇子は少し思案するとゆっくりと話し始めた。
「そうだね、趙忠。えっと……功績を挙げた人を抜擢するのと。あと現地は腐敗に不満があるみたいだから、やっぱり賄賂とか取らない人がいいと思う」
「当然のことでございます。まさしくその通り為しましょう」
趙忠は頭を下げているが、これだとほぼ何も言っていないに等しいので何とでもなるなと考えている。
「あ、あと董卓の功績が大だから、
来たな。と趙忠は思った。
「素晴らしいお考えかと思います、しかし董将軍は
「それはなぜだっけ」
「実家のある土地を統治すると、どうしても実家親族に配慮をし、また仲の悪い豪族を弾圧するなど私心によって政治を誤るからです」
事実である。もともと地方の出身者がお互いに徒党を組み、お互いに便宜を図ったり、汚職に発展する例があまりにも多かった。
もともと漢人は親戚や出身地、血縁地縁を非常に重視する民族であり、たとえ本人がどれだけ清廉な賢人であっても親族が害をなすのである。
そのため出身地不可、婚姻関係の両家がお互いの出身地を担当をするのも不可、三州の人間が順繰りにお互いの土地を担当するのも不可という具合にどんどん規制が厳しくなり今に至る。
「そっか、じゃあどうしよう」
「董将軍は将軍位を昇格させ
「うん、わかった。よろしく」
趙忠が弁皇子に述べた内容には間違いはない。
本来ならば人事権を得たからには十常侍の血縁を配置して利益をむさぼるところであるが、趙忠は強欲ではあっても愚かではなかった。
(宦官は所詮、腹の中の虫である)
と趙忠は思っている。
強大な獅子の腹にも虫は居る。しかし腹の中の虫が良い肉を食べるためには、獅子が元気で狩りをできないとならない。
獅子が苦しんで薬草を食べようとしている時に、虫が好き勝手暴れるようならば自滅するだけである。
獅子の為ではなく、自分たちのために今はおとなしくしているのがいい。
そのためには党錮の禁で追放した名士や、宦官を嫌う人間でも昇進させて不満を散らさないとならん。
董卓も過去には宦官討滅の上奏を行ったことがある。
そして董卓の所属する何進派閥は同じく劉弁を担ぐ立場であるが、派閥の
彼らに力を付けさせすぎない程度に上手い人事が必要である。
ということで、趙忠が作った人事案は下記の通りだった。
董卓に侯爵の栄誉と領地を与えながらも、護羌校尉を兼ねさせることで、実質的に羌族討伐司令官のみに実権を限定した。
涼州刺史には風紀を監督させるとして学問で高名だが原理主義的で実務が無能な人物を当てる。
さらに涼州の太守には董卓の大嫌いな皇甫嵩の部下を黄巾の乱の時の武勲に報いるとして多数昇進させた。
当然ながらこのような危険地帯には宦官の縁戚は一切かかわらないようにしてある。
皇帝と弁皇子の了解を得て、無事に人事案は発行された。
(ここまで芸術的な人事案など他の誰にもつくれんだろうな)
趙忠は密かに満足していた。
※
・資治通鑑 巻058 中平三年(西暦186年)
以中常侍趙忠為車騎將軍。帝使忠論討黃巾之功
「帝は中常侍の趙忠を車騎将軍と為す。忠に黄巾討伐の論功行賞を任せる」
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