第50話 (そのころ)教団本部
※教団&楊奉視点です
「いち・にー・さん・しー」
「いち・にー・さん・しー」
爽やかな山裾の空気に、元気な掛け声がこだまする。
両手、両足。すべての関節を動かし、すべての筋を丁寧に伸ばして軽く汗をにじませる信者たち。
「おおきく息を吸ってー、吐いてー」
舞の最後に、体内の気を天地に調和させるための
これにより心技体が鍛えられ、整うことで健康長寿の効果があるのである。
河伯の巫女は孔子を
なので健康長寿はお祈りではなく、自らの努力で手に入れるものであり、そのために様々な修行を行うのである。
……
……
「手を清めー」
「うがいー、はじめ!」
「がらがらがらがらがら」
河伯教団では清潔を旨としており、木炭で
また豊富な石炭の火力で、温水浴や蒸気浴も行われ、毎日一回は身体全体を清めるように勧められている。
食事は共同であり、里にある大型の調理鍋で大量に作られている。
こちらも山川獣草の調和を象徴した食事である。
第一群を獣の命の象徴たる、乳や
第二群を山川の幸、である肉、魚、豆類であるとし。
第三群を草木の幸、である野菜、果物であるとし。
第四群を命の根本である穀類とし。
すべてを第五群の塩でまとめ、五行と調和するのだとしている。
信者が食堂に並び、一斉に祈りの言葉をささげる。
『汝ら、父母に孝、兄弟に友。
夫婦相和し、朋友相信し。
恭倹己れを持し。
博愛衆に及ぼす。
学を修め業を習い。
皇国の四方を守るべし』
そして、食事を終えると再度、手と口を清める。
特に食事に用いる歯については非常に厳しく、歯と歯茎に塩を塗り込み、房楊枝で一切の汚れや粘りのない状態に磨き上げられることが求められている。
ジャーン・ジャーン・ジャーン!!!
朝の準備が終わると、始業の鐘がなる。
信者たちは製粉場や石窯、牧場、果実園、薬草園、製陶所、石炭採掘、高炉や鍛冶場に向かい、それぞれの仕事をするのである。
後には老人と子供たちが残り、ごく簡単な読み書き算数を教え学び、空き時間で遊んだりして暮らしている。
そして日暮れ前に鐘の音とともに大人たちが帰ってきて、またお清め、お祈り、食事、瞑想に
……
……
信者の群れを見ながら、河伯里の
「いやぁ、なんちゅうか。ここんとこ身体の調子がぶち
「もともとお酒飲んで怠けてたからじゃない?」
茶化してくる匈奴の少年に言い返す。
「女子供まで酒飲んじょる
「馬乳酒は身体に良いし、酔わないよ。そんなに」
匈奴の少年、
しかし、たしかに巫女の下についてからは酒量は減った。これは生活が規則正しくなっただけではない。
「先がな、楽しみなんじゃ。ワシは山賊になってから毎日心配事しかなかったけぇ。明日の飯は足るか。官兵が来よらんか。他の山賊が来よらんか。酒を飲まんと寝れんかった」
そう、未来が楽しみだ。あの巫女は次々に思いもよらないことをする。そしていろんなものを変えていく。
酷い政治に重い税。貧しい暮らしに病に怪我。秋になれば襲ってくる
ここにはそれがない。平和で豊かだ。
「しかし、巫女様も洛陽では物入りやろに、銭を受け取ってくれんかの」
「鉄官に製鉄許可の支払い終わったんだっけ?」
「それはとっくに終わっとるよ」
楊奉にとって不思議なのは、
いや、もともと金持ちの家の出身だから銭には困ってないのだろうが。少しぐらい自分のために使ってもいいと思うのだが。
そうしたら自分も気持ちよくピンハネするのに、これでは手を付けがたい。
「じゃあ、ワシはもっぺん東の
「
ここは平和だ。でもそれはここがずっと平和なことを意味しない。
隣の州郡では山賊がでたり、
河東の隣も平和でないと、河東の平和は保てない。
楊奉は山賊時代の部下をつれ、劉豹は匈奴の部民をつれ、それぞれ出発していった。
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