第32話 山裾にて

どうも。あるときは悪役トウタク令嬢むすめ、あるときは婚約破棄される薄幸の美少女、あるときは男装の美少年官吏、またあるときは謎の面紗ますくど美少女巫女の董青ちゃん13歳です。





「うおおおおおっ!!」

ガシッ!!バシッ!!


無職ニート屋敷の中庭に威勢のいい掛け声と打撃音が響きます。


「ホイ、ホイ」


公明少年が李傕リカクさんに剣術の訓練を付けてもらっていました。二人とも木刀をもって激しく打ち合っています。



「ほう、なかなかやるやんか」

董卓パパを見習って大絶賛無職中、郭汜カクシさんが面白そうにつぶやきます。


しかし、公明くんは汗ダラダラで攻めまくっていますが、李傕さんは涼しい顔でさばいています。


「そうですか?李さんの相手には不足なようですが」

「そらお嬢様、歴戦の李と15,6の少年を比べたらあきまへんわ。瞬殺されないだけその辺の雑魚よりはるかに強い」


ニコニコしながら郭汜さんが説明してくれます。

はぁ、そういうものですか。ただの親孝行な少年だと思ってました。


「公明くんも背丈は一人前に伸びてますけどな。ほら、李とは肉付きが全然違いますわ。これで成長したらええとこ行きますで」


確かに背は高いですが、まだまだ少年らしいしなやかな体つきの公明君に対し、李傕さんは低めの背丈にがっしりと筋肉がついています。




「よし、こちらカラ、いくゾ」

「はいっ!」


ビシッ、バシッ……

李傕さんが一気に攻め込みますと、公明くんは防戦一方になります。

公明くんがなんとか食らいついて鍔迫り合いに持ち込みますが。


「ハアアッ!!!」


李傕リカクさんは、ほとんど振りかぶらずに、力で公明くんを払いのけます。そして体勢を崩した公明くんの頭に。


パシッ!


「勝負ありやでー」



「はぁ……はぁ……ありがとうございます。師匠せんせい

「もっと肉ヲ食ベロ」

「はい!」


李傕さんが言葉少なく指導します。


なんか最近物騒だということで、公明くんが志願してこうやって教えてもらっているのです。



「あー、坊主さぁ。剣がまっすぐなんはええけど、力自慢の李に力で真正面から挑んでたら勝たれへんで?」

「そうですか?」


「おう、李みたいな猪突猛進はな、こう、上手いこと呼吸をずらしたったら隙ができるから楽勝なんや」

「おい、郭、貴様なら俺に勝てルとでも言いタイノカ?」

「ほら、アホやからこういう安い挑発に乗るやろ、そうしたら動きが読みやすくなる」

「アン?」

「なんや?」


李傕さんと郭汜さんがガンを飛ばしあいはじめ、公明くんが冷や汗をかいてあたふたしています。


「べ、勉強になります。ありがとうございます。でも、まずは真っ直ぐ力を付けたいです」




「おお、やっておるな。元気でよろしい」

「おはよう」


董卓パパが牛輔ギュウホ義兄をつれて現れました。

公明くんが背筋を伸ばして元気に答えます。


「はい!稽古をつけていただきました!これから体操をします!」

「若いものはいいな、頑張り給え」

そう答える董卓パパのお腹がぶるんと震えました。


……じーーー。


董卓パパ、牛輔義兄様も、謹慎中で毎日食っちゃ寝してるから太ってますよね??いい機会です。


「では、みんなで体操しましょうかー?」

「む?小青青ちゃん?!いや、わしは今更鍛えてもじゃな」

「そ、そうだよ、僕たちはもう完璧に鍛え終わってて」



言い訳する二人に私は冷酷に言い放ちました。


「家に閉じこもってるから鈍って太ってます!はい、体操はじめー!!」


……


……




「はぁ、ひぃ……」

「ぐはぁ……」


董卓パパは柔軟と全身体操を一通りやっただけで息が上がってしまっています。


これはまずいですね、毎朝やってもらいますか……。

まぁ、家にいても雑穀ご飯ばかりですから、適度に運動していれば痩せるでしょう。


よし、じゃあ今日も巫女のお仕事です。

「公明くん、そろそろ行きましょう」

「はいっ!」


私は公明くんと、李傕さん郭汜さんからつけてもらった護衛の兵隊わかいしゅう数名をつれて教団に向かいました。



 - - - - -



「行ったか、しかし疲れたのう。袁老師(袁隗)の秘策も通じなんだし。酒でも飲まねばやっておれぬぞ」

「まさか張譲チョウジョウら宦官が黄巾賊に内通している証拠をつかんで告発したら逆に告発した王允オウイン様が死刑とはもはや世の中が逆さま。理解ができませんな。飲みましょう!」

「せやけど主公との様、ウチには酒も買う銭もありませんで」

「主公、俺、ちょっと行って盗ってクルか?」

「いかんいかん。そこは頭を使うのだ……うむ。そろそろ太守に謹慎の定例報告があるな。よし、太守に酒をださせよう」

「だしますかね?」

「ださせるんじゃ」


董卓は牛輔、李傕、郭汜をつれて、河東郡の新任太守の政庁に押しかけていきました。



 - - - - -




河東郡安邑県のお城を離れた山裾。

そこの荒れ地に天幕てんとと簡単な柵(かこい)があります。


河伯かはく教団の本部です。


城内で集団で煮炊きをしていると目立ってしまい、新しい太守さんもいい気をしていないようです。活動再開にあわせて本部をひっそりと人目のつかないところに移動することにしました。



河東郡このへんは古くから人が住んでいるため、農地に向いている平地はもう開墾しつくされています。ここは山裾のでこぼこした荒れ地ですが、湧き水があって飲み水は手に入りますし、山に入ればたきぎ集めや果実集めも捗りますので良い土地だと思います。


と言ったら、この土地を発見してくれた公明くんが得意そうでした。




私は、変装用の面紗かおぬのごしに公明くんにやりたいことを説明します。


「で、石窯おーぶんを作りたいんです。こう、れんがを積み重ねて粘土で補強して」

「はい、わかりました!」



石窯おーぶんができれば、熱を逃がさない構造になっているので、少ない燃料で多くの餅乾くっきーを焼いてさらに儲かることでしょう。



「できました!!……潰れました!!」


早いですね!壊すのも早いですね!!?



公明くんと信者さんたちでワイワイ話し合って、粘土を掘ったり、石をくみ上げて見たり、れんがを日干ししたり、れんがを焼いてみたり、なんかいろいろやっています。


こうやっていると開拓している感があってとてもワクワクします。ワクワクしますが、手をだそうとすると信者さんたちに怒られるので見ているしかありません。


あ、そこはなんか昔なにかで観ました!こう円弧を描くように積み上げると安定するはずです!


手元で竹簡を積み上げて見本を見せると、みんなであれこれ言いながられんがで再現してくれました。


……


……



なんやかんやで日にちは過ぎていきます。


気が付くと十数個の石窯おーぶん石窯おーぶん?と石窯おーぶんだったものと崩壊したナニカが教団本部にずらりと。それぞれ出来を確かめてみます。


「うん、これとこれは温度もいい感じじゃないですか?」

「おお!!ではさっそく餅乾くっきーを焼きましょう!!」



しかし、こうして量産できるようになると、別の問題がでてきました。材料です。



匈奴のおじさんと交渉して乳製品の増産をお願いします。

「また来たネ恩人。乳脂ばたーがモットイル?ダッタラ、羊カウ?」


そっか、それもそうですね。幸い、山裾の荒れ地とはいえ、あちこち草も生えていますし。教団本部で家畜を飼えばいいんです。


こうして、餅乾くっきーの売り上げを少しずつ家畜に変えていき、教団本部に放牧場が誕生しました。




……


……


なんやかんやで日にちは過ぎていきます。


餅乾くっきーの販売は好調ですが、生地に混ぜる果実を探すために信者さんたちが山奥まで遠征するようになりました。


「果実ももっと欲しいですね?山奥ではなく、この辺に果実の木があればいいんですが」

「……わかりました!山から掘ってきます!」

「え」


公明くんはそういうとあっという間に信者さんたちを集めて、山奥に攻め込み、果実の木を掘り出してきてしまいます。


教団本部に果樹園が誕生しました。


……


……



なんやかんやで日にちは過ぎていきます。



信者の皆さんが粘土遊びをしています。こねこね。

こねこねとお椀や壺の形にしていきます。


そういえば石窯おーぶんを作るときに大量に掘った粘土がそのままでした。


「ああ、食器を作るんですか」

「粘土が余ってただから、これをそこで焼くだ」


見ると信者さんがたきぎを積み上げて土器を焼く準備をしていました。


あれ?


石窯おーぶんが空いてますよ?」

「え、あれってお椀を焼いていいだか?」

「食べ物用とは分けてくださいね」



ただの焚火よりも石窯おーぶんのほうが保温の力が高いのです。


「巫女さま、できましただ!」


信者さんたちが大喜びで見せてくるお椀はめちゃくちゃ歪みまくってますが、いちおう土器の生産が始まりました。



轆轤ろくろが欲しいなぁ……ある?


なんか手や足で回す式のがあるらしいです。私の記憶にあるやつは機械で回してましたが……。


みようみまねで轆轤ろくろを作らせて、試しに回してみるとガタガタいいますがなんとか動きました。水を塗った手で粘土をなでていくと、みるみるうちに土器の形が整っていきます。



うんうん、そこそこの出来ですね……これ、売れるんじゃ?


餅乾くっきー屋でお椀や壺も置くとそれなりに売れるようになりました。仕事が増えたね!


教団本部に土器焼き場が誕生しました。


……


……



なんやかんやで日にちは過ぎていきます。


教団本部にちらほらとあばら家が立ち始めました。

信者の皆さんが畑を売り家を引き払って、こっちに定住することにしたようです。


「もともと畑も小さかっただし、あそこをちまちま耕すよりこっちのほうが稼げるだ」


放牧場の牛羊、鶏なども増え、果樹園の木も何本か枯らしつつも、なんとか定着しています。また餅乾くっきーや土器の収益はみんなで分けていますが、それで少しは生活がよくなってるようです。


そして、私は地道にそれを帳簿につけています。


「うふふふふふ」

帳簿の数字や家畜の群れを見ると自然に顔がにやけてきます。


数字が増えていく!資産が増えていく!均輸きんゆのときは全部中央に取られてたけど、みんなが働いた分でみんなが豊かになるんです。


これは、楽しいですね!!

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