転校生がピュアすぎて辛い

シスイ:今日学校に行ったらすごく素敵な友達ができて……


『と……友達?』


『シスイちゃん友達おったん?』


『騙される未来しか見えない』


 燐火ちゃんのアカウントを眺めながら私はどうしたものかと悩んでいます。


 彼女はピュアすぎる――それが私の感想でした。ネットとは魑魅魍魎が渦巻くところ、このような陽キャが安易に参加すれば古参達から食い物にされる気配しか感じません。


 しかし、ここで私が介入するのは少し問題があります。


 何しろ燐火ちゃんに定期的にアカウントを転生させているネット浮浪者系アイドルと仲がよいというイメージは付いて欲しくないのです。私の評価についてはもう諦めました。


シスイ:そんなこと無いよーすっごくいい子だったんだから


 なんでしょう、大変胸が痛いですね。まるで騙しているようではありませんか……


 しかしここは心を鬼にして無視するしかありません。ここで私の介入がいい結果をもたらさないことは確実でしょう。


 私はそのアプリを閉じて全てを見なかったことにしようとしました。そしてPCを起動していつも通りアカウントを転生させて新規を作ります。


もゆる:いじめって最悪ですね、人を無闇に疑うのってよくないと思うんですよね、誰とは言いませんが


 私の精一杯の援護です。直接の名前は出せませんがそれとなく察して欲しいという意志を示しました。


『確かに最悪だけどさ……君この前リアルのアカウント特定に精を出していなかったかな?』


 くっ……私ではない私がロクなことをしませんね。どうしてこうもクソムーブをかます連中が私を名乗るのでしょう?


 そしてそれが私自身だと思われていることが気に食わないです。何しろゲスいほど私である可能性があるという基準になっているようです。この前なんて私が宗教団体が崩壊した時に祝福しているアカウントが本物扱いされていて、哀悼の意を表している人ほど偽物呼ばわりされていました。


 どうやら私自身の闇と、私を名乗る人の闇が合わさり最強に見えるようですね、光属性の人は頭がおかしくなって死にます。


 そこへ問題のある発言が飛び込んできます。


 それはスマホのメッセンジャーに一通として届きました。


燐火:写真公開していいかな? 皆凪ちゃんの可愛さを信じないんだよ?


 私はマッハで返事をしました。


凪:絶対にやめて! お願いだから! フリでも何でもないからね? マジでやめてよ!


 心臓が冷えました。私も大概ネット上での炎上は経験していますがここまで焦ったことはまずありません。つーか陽キャは平気で顔をネットにアップするんですか……フツーにVRモデルでいいじゃないですか!? 肉体を晒す必要あります!?


 私のそんな必死の叫びが通じたのか、しばらく経っても写真がシスイアカウントにアップされることはありませんでした。あの調子ではネットのイロハをたたき込んでおかないといずれ痛い目を見そうな危うさが燐火ちゃんにはあります。


 ふぅ……どうにか顔バレは避けられたようです。明日、燐火ちゃんにはネットとの付き合い方を教えておかないといけませんね。


もゆる:友達ができた! イエーイ! ぼっちとか言ってた人見てるー?


『ついに妄想が見えてきたか』


『イマジナリーフレンドやめーや』


『コイツに友達ができたとは思えない寄ってこのアカウントは偽物』


『むしろ見栄を張っているあたりが本物っぽいんだよなあ……』


『もしかしてその友達とはアナタの想像上のものではないでしょうか?』


 私はそっとアカウントを削除して新規のメールアドレスを発行しました。

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