【Session42】2016年05月08日(Sun)母の日
今日は五月の第二日曜日で母の日、この日、学は新宿にある自分のカウンセリングルームで何時ものようにカウンセリングをこなしていた。昨日から東京の代々木公園では東京レインボープライド2016と言う、LGBT関連のイベントが行われていたのである。そしてLGBTとは以下のことを言う。
【LGBTとは】
LGBTとは性的マイノリティ(性的少数派)のことを示し、13人に1人はこれらの性的マイノリティ(性的少数派)の当事者であると一般的に言われている。
L⇒レズビアン(身体の性、心の性も女性で女性を性愛の対象とする同性愛者)
G⇒ゲイ(身体の性、心の性も男性で男性を性愛の対象とする同性愛者)
B⇒バイセクシャル(男女両性を性愛の対象とする両性愛者)
T⇒トランスジェンダー(身体の性と心の性が一致せず、肉体的にも異性になろうとする人)
と言う言い方をすることが多い。さらにトランスジェンダーのひとの中にも異性愛者、同性愛者、両性愛者がいたりする。性的マイノリティ(性的少数派)にはこれらの他にトランスジェンダーを性愛の対象とするトラニーチェイサー、また男女どちらも性愛の対象としない無性愛者もいる。本人が自分のジェンダーに確信が持てなかったり、反対の性に同一感を持ったりする場合を性同一性障害と言ったりもする。
そして現実的に性転換手術は未だに、タイ王国に行って行わないといけないと言うのが現状であり、LGBT(性的マイノリティ)関連で悩んでおられる方が、少しずつ戸籍変更などの市民権を得られるよう、こうして各国各地でLGBTに関連したイベントや行事が行われているのである。
学もこのようなLGBT関連の相談をクライエントから受けることがある。学自身はLGBTの当事者では無いがストレート(異性愛者)として、ストレート・アライ(人権の平等化や男女同権およびLGBTの社会運動の支援や、ホモフォビアへの異議を投げ掛ける異性愛の人)と言う立場を取っていたのである。そして今日が東京レインボープライド2016の二日目で、パレードと言って繰り出したひと達が代々木公園からスタートし、大挙の列をなして道路を練り歩き、LGBT(性的マイノリティ)のひと達の人権を一般のひと達にアピールするため、渋谷駅傍の道を歩いていたのだった。
その頃、樋尻透は渋谷駅で、透のお店『新宿歌舞伎町ホストクラブ ACE』のお店の常連客の女で、透に入れ込んでいる風俗嬢の女と同伴の約束を渋谷駅でしていた。そこに東京レインボプラードプライド2016のパレードの一団が、透の目の前の道路を横切って行こうとしたのだ。透はこの時、何のお祭りだろうと思った。
レインボーカラーのフラッグを振ったり、プラカードを掲げてシュプレヒコールを挙げて叫ぶひと達を観て、このお祭りは何なんだろうと思ったのだ。
パレードの先頭のひと達はオープンカーから身体を乗り出し、しかも奇抜な女装をした男性と思われるひとや、派手な衣装やメイクをしたひと達がしきりに大声を挙げ、何か言っているのを透は観ることが出来たからだ。そしてその後を大勢のひと達が列をなし、大挙となってシュプレヒコールを挙げて歩いて行く。透はその一団の中のマッチョの男から、何やらビラらしき物を手渡されこう言われた。
マッチョの男:「あなたカッコイイわねぇー。はい、このチラシあげるわ」
樋尻透:「これは何のお祭りなのかなぁ?」
マッチョの男:「東京レインボープライドって言って、LGBT(性的マイノリティ)のひと達のお祭りなのよぉ!」
樋尻透:「こんなことして、何か意味あるの?」
マッチョの男:「今注目されてるし、取材とかもあるから。テレビに映ったら有名になれるかも知れないし」
樋尻透:「だから皆んな、そんな派手な格好してるの?」
マッチョの男:「そうよ。僕もこれで有名になりたいし、そうしたら僕のやってるお店も儲かるじゃない」
樋尻透:「なーんだ。結局、お金とか有名になろうとかが目当てなんだ」
マッチョの男:「そうよ。そうじゃなきゃ、こんな派手な格好してやる必要も無いし。だから僕、この東京レインボープライドで取材とかされて有名になりたいの」
そう言って、ピチピチの皮ジャケットを着たレイザーラモンHG似のマッチョの男は去って行った。これを聴いた透は、この東京レインボープライドで本当に市民権を得ようと思って活動しているひと達が果たして何人いるのやら。結局、有名になりたいとかお金になるからやるとか、そう言う考えのひと達が実際は多いじゃん。そして慈善団体とか慈善事業をやっているひと達って、国や行政から補助金貰ってある意味私腹を肥やしている団体もあるのではないかと思ったのだった。そんなことを透が考えていると、約束していた風俗嬢の女が透の元に現れたのだ。
風俗嬢の女:「ごめーん。待った透!」
樋尻透:「いやぁー、ちょっとだけね。その代わり僕を待たせた分、僕は君に貸しを作ったと言うことだよ」
風俗嬢の女:「それって、どう言う意味!?」
樋尻透:「僕を待たせたと言うことは、君はその分それに見合う何かを僕にする必要があると思うんだけどねぇ」
風俗嬢の女:「それってお金? それともプレゼント?」
樋尻透:「それを決めるのは僕じゃないよ。僕は君の誠意が欲しいんだ!」
風俗嬢の女:「わかった。わたし透のこと好きだし。だから時計でもいいかなぁ?」
樋尻透:「君がそれでいいなら、いいんじゃない」
そう言って二人は透のお店がある新宿へと向かった。そしてカルティエのお店へと二人は入って行ったのだ。そのカルティエのお店で風俗嬢の女は、透にこう尋ねたのである。
風俗嬢の女:「透、透はどの時計がいい?」
樋尻透:「僕はさっきも言ったように、君の誠意を形として欲しいんだよね」
風俗嬢の女:「そっかー、わたしの透への誠意か」
そこにお店の店員がやって来てこう言ったのだった。
お店の店員:「どういった物をお探しでしょうか?」
風俗嬢の女:「誠意だから、特別な形の物かな」
お店の店員:「当店には100万円ぐらいから1000万円までの時計を取り揃えておりますが」
風俗嬢の女:「特別な形となると、どういった物に?」
お店の店員:「それでしたら、この500万円ぐらいの時計などどうでしょうか?」
風俗嬢の女:「透、透この時計でもいい」
樋尻透:「君がそれで良ければ、僕はそれでいいと思うよ」
風俗嬢の女:「わかった透、じゃあそれください」
お店の店員:「かしこまりました」
こうしてこの風俗嬢の女は、透に500万円近くする「ロトンド ドゥ カルティエ セントラル クロノグラフ ウォッチ」と言う時計をプレゼントしたのだ。透はこの時計をこの女から貰うと、嬉しそうなとびっきりの笑顔を作ってその風俗嬢の女にこう言った。
樋尻透:「いやぁー、ありがとう。君は僕の好みを良く知ってるんだねぇ。この時計、前から欲しかったんだよ。君ってセンスがいいねぇ」
こう透に言われたその女は、とても嬉しそうな表情を浮かべていたのだった。透の取った行動はある意味、ホストにとっては常套手段だ。透は一度もお金やプレゼントをこの風俗嬢の女に要求していない。透がこの女に言ったのは、この女の誠意を形にして欲しいと言っただけである。
だから透からしたら強要や恐喝など一切していないし、透自身悪いことをしていると言う自覚も無い。ただ勝手にこの女が500万円近くのカルティエの時計を自分にプレゼントしただけだと思っているのだ。この辺の「駆け引き」と言うか交渉術において、透は一流のホストであり一枚も二枚も上手だったのである。
こういった露骨なお金や物を要求することなく、相手から気持ち良くお金やプレゼントを受け取ることが透にとっての美学であった。だから透がNo1ホストで居続けられる所以であり、これは彼なりのホストにおける哲学でもあるのだ。二人は店を出て、この後一緒に新宿にある高級レストランで食事をし、透のお店『新宿歌舞伎町ホストクラブ ACE』へと入っていったのだ。
その頃、学はと言うと、彩と新宿にある学の『カウンセリングルーム フィリア』で、彩のカウンセリングを行っていた。学と彩はこんな会話を交わしていたのである。
木下彩:「こんにちは倉田さん。今日は母の日って知ってます」
倉田学:「そのようですね。木下さん」
木下彩:「倉田さんのお母さんって、どんなひとだったんですか?」
倉田学:「僕の母親ですか。僕は母親といい想い出が無かったから」
木下彩:「でも、血が繋がってる親だからひとつぐらいは」
倉田学:「僕の記憶の中ではひとつも無いんです。木下さんはどうなんですか?」
木下彩:「わたしは両親が離婚するまでは仲が良くて。でも、父親が浮気して離婚してからは…」
倉田学:「僕は今まで親から愛情を貰ったことが無い。そしてこれからも一生愛されることは無い。血が繋がっているからこそ逆に、僕は両親のことを許せないし、わかり合えるとも思えない」
その学の言葉を聴いた彩は、少し悲しそうな顔を学に見せたのだった。そしてこう言った。
木下彩:「倉田さん。倉田さんが心理カウンセラーになったのはその為ですか?」
倉田学:「僕にもわからないよ。でも、一番わかってるのは僕の中の無意識かな」
そう学は彩に告げ、もうこれ以上この日の彩とのカウンセリングで、母の日についての話をすることは無かったのであった。
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