【Session41】2016年05月03日(Tue)憲法記念日
今日はゴールデンウィーク真っ只中の祝日「憲法記念日」で、国民の祝日のひとつである。これは「日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する」と言う意味から、1948年(昭和23年)に公布・施行された祝日法によって制定されたものである。
この日は「日本国憲法」の憲法第9条、「平和憲法」について改憲派、護憲派がそれぞれ憲法改正に関する世論調査や講演会などを行っていたのだ。学は憲法と言うものは実定法なので、時代と共に変わるものだと思っていた。
そして法律が実定法である限り、世の中の倫理により法律もそれに即して変わるもので、今の「平和憲法」は「日米安全保障条約」が永久普遍的に継続される保障が約束されていると言う合意のもとで成り立っているのであり、もし「日米安全保障条約」が成立しなくなったら、日本国は自国を守ることが今の憲法では出来ないのではないかと思っていたのだ。
そんなことを学は自分のカウンセリングルームで考えながら、テレビでこの日の「憲法記念日」に関するニュースを観ていたのである。今日はゴールデンウィーク中と言うこともあり、学のカウンセリングルームに訪れるクライエントの数も少なかった。そして夕方、学は熊本地震の義援金の件で、みずきのお店『銀座クラブ SWEET』に向かったのだ。
倉田学:「こんばんは倉田です。熊本地震の義援金の件で来ました」
ゆき :「こんばんは倉田さん。わざわざ熊本地震の義援金の件で来たんですか?」
倉田学:「まあ、そうですが。僕がみずきさんに『銀座クラブ マッド』のじゅん子さんを紹介したから」
ゆき :「倉田さんって面倒見がいいんですね」
倉田学:「違うんです。ただ僕は紹介した手前、みずきさん、じゅん子さんのお互いのメンツを潰したく無いだけです」
ゆき :「本当に、そうなんですか?」
そうゆきが言うと、学は自分の本心をこう話した。
倉田学:「本当はみずきさん、じゅん子さんふたりのメンツと言うより。僕がふたりを引き合わせたので、僕のメンツを潰したくないと感じたから来たんです」
そう学がゆきに告げると、ゆきは学の表情を伺ってこう言った。
ゆき :「倉田さんって心理カウンセラーなのに、自分のこころを隠すの上手く無いんですね」
倉田学:「僕は今まで、周りのひと達の空気を気にして生きて来ました。だから常に場の空気を読んで、自分を押し殺し周りのひと達に合わせて来ました。そして今でも周りからの自分の評価を気にしてしまって」
ゆき :「倉田さん、そんな生き方で苦しくないんですか?」
倉田学:「僕は心理カウンセラーで、クライエントさんには偉そうなこと言ってるけど…。本当の自分は弱虫で意気地が無いだけなんです」
ゆき :「倉田さんって正直なひとなんですね」
倉田学:「ただ僕は嘘をつくのも下手だし、自分を出して自分が傷つくのが怖いだけなんです」
そう学は言うと、ゆきは学にこう一言言ったのだ。
ゆき :「前に『東北被災地の旅』で、ゆうのお店『石巻駅前 Café&Bar Heart』にいるときに皆んなから言われた言葉覚えてます?」
倉田学:「ええぇ、確か『天然記念物』と」
ゆう :「そうです。倉田さんは『天然記念物』です」
倉田学:「それはいい意味ですか?」
ゆう :「もちろん、そうですよ」
そう言ってゆうは学の元を離れ、みずきを呼びに行ったのだった。しばらくして、みずきは学の元へとやって来たのだ。そしてこう言った。
美山みずき:「倉田さん、わざわざお店にいらしたんですか?」
倉田学:「ええぇ、まあぁ。今回、僕は『銀座クラブ SWEET』と『銀座クラブ マッド』を結びつけたキューピットだから」
美山みずき:「その倉田さんからの弓矢は、恋の弓矢ですか?」
倉田学:「僕の弓矢は恋ではなく、みずきさん、そしてじゅん子さん、ふたりを橋渡しする弓矢です」
こう学がみずきに言うと、みずきは少し残念そうな表情を学に見せたのだった。学の言ったキューピットとは、正確にはキューピッドと「ト」が「ド」と濁り、元々はローマ神話の恋の神「クピド」の英語名である。
そして、その恋の子「クピド」はヴィーナスの子にあたり、弓矢を持つ裸の有翼の少年でもあるのだが、その矢に当たった者は恋心を起こすと言われているのだ。またギリシア神話の中では、エロス(エロース)のことを示しているのだった。そんなことを思いながら、学はみずきにこう尋ねた。
倉田学:「先日、じゅん子さんのお店『銀座クラブ マッド』に行った時、銀座クラブ街を挙げて五月に『銀クラ おもてなし コンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』を行うと言ってましたが、その後どうなったでしょうか?」
美山みずき:「この連休明けから行うことが決まったのよ」
倉田学:「それで、この『銀クラ おもてなし コンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』には、みずきさんのお店から誰が出場されるのですか?」
美山みずき:「それが、まだ決めかねていて」
倉田学:「そうですか。出場したいと言っているひとは誰かいますか?」
美山みずき:「そうねぇー。ゆきとみさき、そしてのぞみやその他に数名のスタッフも」
倉田学:「そうですか。皆んな熊本地震の義援金の為に出場しようと頑張っているんですね?」
美山みずき:「わたしはお店のスタッフ全員の本心を知っている訳では無いの。このコンテストに出場し有名になりたいと思ってる子もいるかも知れないし。倉田さんどう思う?」
倉田学:「僕にもわかりません。そう言う意図でコンテストに出たがる子もいるかも知れません」
美山みずき:「倉田さんだったらどうしますか?」
倉田学:「僕だったら、最初にじゅん子さんのお店に熊本地震の義援金の件で掛け合いに行ったメンバーの中から選ぶと思います。そこに行ったひと達は、コンテストに関係無く熊本地震の義援金に協力しようとしていたのだから…」
美山みずき:「そうよね。わかりました。今日は三人とも出勤してるので、わたしを含め四人で話し合ってみます」
倉田学:「そうですか」
そう言って学は何時ものように奥のカウンターの席に通され、ウイスキーを飲もうとしてバーテンダーの動きを観察していると、みずきが学の元に近づきこう言った。
美山みずき:「倉田さん。今、わたしを含め四人で話し合ってるんですが、皆んな自分が出場したいと言って決められないの。倉田さんの意見、貰えるでしょうか?」
倉田学:「僕はこのお店のスタッフじゃないし、それにひとを選んだり落としたりするのも苦手だし」
美山みずき:「倉田さんが決める訳じゃないから大丈夫ですよ。倉田さんの『第三者の意見』が聴きたいんです」
そう言われた学はあまり乗り気では無かったが、しぶしぶ四人が話し合っている奥の小部屋に案内されたのだった。そして学はこう言った。
倉田学:「それでゆきさん、みさきさん、のぞみさん。三人とも『銀クラ おもてなし コンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』に本当に出場したいんですよね」
こう学が三人に確かめると、三人とも首を縦に振って頷いたのだった。学はこう続けた。
倉田学:「この『銀クラ おもてなし コンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』は 銀座クラブ街の各お店の代表として出場すると言うことです。つまり、このコンテストで、みずきさんのお店のイメージやブランドに今後影響を与える可能性が大きいと言うことです。その重みを背負って出場することになるんですよ」
学がそう言うと、みずきもこう言ったのであった。
美山みずき:「そうよ、あなたたち。このお店の威信がかかってるの」
みずきがこう言うと、ゆきとみさきは、二人とも声を合わせたかのようにこう言ったのだ。
ゆき :「それでは、のぞみ先輩に任せます」
みさき:「それでは、のぞみ先輩に任せます」
そして、これを聴いたみずきは言ったのだった。
美山みずき:「あなた達の先輩ののぞみに任せるのが、わたしも一番いいかと思うの。倉田さんはどう思う?」
倉田学:「僕も賛成です。ただのぞみさん、発達障害を抱えてるから、これがのぞみさんのストレスにならなければ…」
この言葉を聴いたみずきは、のぞみの出場が本当に大丈夫かのぞみに確認したのだった。
美山みずき:「のぞみ、本当に出場できるの。無理はさせたく無いのよ」
のぞみ:「大丈夫です。わたし熊本地震の被災者のために、そしてこのお店のために頑張ります」
こうのぞみが言うと、ゆきやみさきもこう言ったのだ。
ゆき :「のぞみさん、頑張ってください。わたし達がバックアップしますから」
みさき:「のぞみさん、頑張ってください。お店の方はわたし達が頑張りますから」
これを観たみずきは、自分のお店のスタッフが他のスタッフのことを本気で応援し、自分はこんなスタッフに囲まれて仕事が出来ることに誇りと嬉しさを感じ、経営者冥利に尽きると思っていたのであった。
また学はと言うと、こんな素晴らしい仲間がいるお店があるんだと感心するとともに、学が昔誰かから聞いたことのある言葉の、「金儲け」では無く「ひと儲け」と言う言葉を思い出したのだ。こうして学が今いる銀座の『おとなの夜の街』は更けて行ったのであった。
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