第4話・ひらりと彼氏
海老出汁の味噌汁を啜りながら、四季はひらりを見た。
「あんな、ひらりの彼、トオルって言うんやけど」
「うん」
「よくプレゼントくれるねん」
「へぇ」
「それで、この前トオルがくれたネックレス、いくらくらいすんのか調べたんやけど」
「っけほ!」
友人の大胆な行動に味噌汁が器官に入り、むせる四季。
「えっ、調べたの!? プレゼントの値段を!?」
「うん。だって今度はひらりが彼にプレゼントする時のために相手の価値観を確認しておかなあかんやろ?」
「……まあ、確かにそうだけど。で、それのなにが気になってんの?」
結構えぐいことするんだなと苦笑しつつも、四季はひらりに続きを促す。
「その……値段がな」
「ん? 高かったの?」
今度は唐揚げをかじりながら、ひらりを見る。
「うん。なんと、百二十万やった」
四季の箸から、ポロッと唐揚げが転がり落ちる。
「ひゃっ……え? 百二十万!?」
「せやねん! 最初偽物かと思って確認したら、本物やったんや!」
言いながらひらりは、興奮気味に紙パックの野菜ジュースを吸い込む。勢いよく吸い込んだ紙パックは、既に空になっていたのか、ペコッと凹んだ。
「ねえ四季、どう思う? さすがにそんなもの貰えんし、明日返そうか思ってんねん」
「う……うん。そうね」
四季は、取りこぼした唐揚げを無造作に手掴みで口に放り込んだ。
「そのトオルさんって人は、お金持ちなの?」
「それがな、いつ聞いても、大したことはしてないからーとか適当に誤魔化されちゃって、なにしてるのか全然教えてくれへんのや」
「え……なにそれ」
彼女に仕事内容を伝えないなんてことがあるのだろうか。四季は恋人などできたことはないが、それでもさすがに引っかかってしまう。
ひらりも違和感を感じているらしく、少し気にしているようだ。
「……それ危ない人じゃないよね?」
「……やっぱり、四季もそう思うやんな?」
ひらりが苦笑した。そして、寂しそうな表情で俯く。
「でもな、優しくていい人なんよ……」
初めてできた恋人ならなおさら、信じたい気持ちは分かる。ひらりはきっと、その恋人のことを心から好きなのだろう。
「ちなみにどこで知り合ったの?」
「マッチングアプリ」
今どき珍しくない出会い方だ。アプリ側もちゃんと悪意あるアカウントかどうかは確認しているだろうし、問題ないだろう。
「あっちから声をかけてきてくれてな。話してみたらすごい話が盛り上がって、トオルも水族館巡りが趣味らしくてなー」
恋人の話をするひらりの表情は、とても優しい。これ以上水を差すのは無粋だが、一応気をつけるように言っておけば、大事にはなるまい。
「まぁ……考え過ぎかもしれないけど、あんまり変だと思ったら早めに別れなよ」
四季はティッシュで指についた油を拭きながら、ひらりに忠告する。
「……せやから、明日ことすい行ったら聞いてみようと思っててん」
そう言って、ひらりは鯛飯おにぎりに齧り付く。
古都水族館なら、四季も一度行ったことがある。人も多いし、問題ないだろう。四季は呑気にそんなことを思っていた。
しかしあの水族館、もう閉館したって聞いた気がしたが。どうやら気のせいだったらしい。
四季は特にひらりにそのことを伝えるでもなく、その話はそこで途切れた。
そして、あっという間に放課後になった。皆部活やら塾やらで、散り散りに教室を出ていく。
それぞれ思いおもいの放課後を過ごすが、四季はただ家に帰るのみだ。伏見稲荷大社をちょこっとだけ散歩して。
「じゃあ四季! また来週なー」
「おー。明日のデート楽しんでねー」
軽い足取りで、ひらりが四季に手を振って帰っていく。
嬉しそうに手を振るひらりを見送って、四季も帰る準備をして教室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。