きなこ奮闘記 ~その夢続けますか~
なつくもえ
プロローグ
叶わなかった夢を追った時間に、意味はあるのだろうか。
こんなにも絵を描くのが好きだから、こんなにも話を作るのが好きだから、だからきっと、わたしには漫画を描く才能があるんだ。
そう信じて走り続けた日々は、はたして無駄じゃなかったのか――。
最初に言ってくれたのは母だった。将来、きっと漫画家になれると。小学生の頃、落書きのようなわたしの絵を見て、力強くそう言ってくれたのだ。
わたしはそれを信じた。疑うハズもない。こんなにも漫画を描くのを好きなわたしが漫画家になれないはずはない。何の根拠もなく、頑なにそう信じていた。
漫画部がなく、孤独に描き続けた高校時代を経て大学に進学。そこで初めて〝漫画を描く〟仲間ができた。お酒を呑んで、漫画論を語り、トキワ荘のようだと思える仲間が。
みんながみんな、漫画家としてデビューするのが夢なんだろうと信じていた。そういう空気に酔っていた。
――でも、本当にそう思っていたのは、わたしだけだったのかもしれない。
大学四年生の時、周りの娘が就活に励み次々と内定を取る中で、わたしは黙々と原稿に向かっていた。
四年間の間に投稿した作品は一次選考を通ったのが二つ、ニ次選考まで残ったのが一つ。まるでダメとはいわなくても、賞にはかからず有望だとは言い難い。
それでも、わたしはこの年こそ自分がデビューする時だと信じていた。夏冬のイベントも、この年だけは参加しなかった。
ほとんどわたしの将来に無関心に見えた父が、唐突に口を出してきた。一つも内定が取れてないとはどういうことだ。自分の将来、真面目に考えているのかと。
怖いと思っていた父と、この時初めて喧嘩した。
大学卒業後、わたしは家を出ていくことになり、免許を取ったばかりの弟に荷物を運んでもらい、家賃四万円のアパートで一人暮らしを始めた。
母親はどうしようもなくなったら戻ってきなさいと、三〇万円封筒に包んで渡してくれた。申し訳ない、という負い目もあったが、それ以上に必ず夢を叶えてやる、という強い決意があった。
あの頃、わたしは信じていた。
強く願って努力すれば、夢は叶うはずだと本気で信じていたのだ――。
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