第39話 発表
実験室は、大騒ぎになった。
謎の生物を投与したラットの一部が眷属化したのだ。
そして眷属化しなかったラットの一部にもっと投与してみたら、悪魔化したのだ。
それはすぐに処理し、死体は消えて行ったが、それは大変な発見だった。
実験結果はすぐに上に報告され、政府にもたらされた。そしてその全データを示して、説明が行われた。
「以上の事から、この未知の生物が成層圏におり、それが気象条件などによって地表に下りて来て動物に寄生し、その一部が眷属、或いは悪魔になると思われます。
また、成層圏に漂っている時には休眠状態ですが、気圧、気温の変化によって活性化する事が判明しています。
滅力の発現については、胸腺由来のアレルギー反応の可能性が考えられます。ヒトの胸腺は子供の頃が大きく、10代半ばから縮小していきます。この生物の蓄積量と胸腺の大きさから、アレルギー反応の出る年代が限定的であり、出る者と出ない者が存在しているのではないかと推察されます。
不幸にも死亡した滅力発現者を病理解剖し、胸腺を検査した結果、それを裏付ける結果が検出されています」
資料を配ってそれを元に説明する。
そうして前半部は、眷属、悪魔、滅力についての正体について説明した。
休憩を挟んだ後半部は、これの対策だ。
ここからは、悠理は一出席者となる。
「成層圏にゼルカを撒いてみたらどうだろう」
「ゼルカだけじゃ悪魔は倒せないだろう。滅力が加わらないと」
「野生動物を片っ端から検査、というわけにはいかないしな」
「これを無力化する薬品の開発が妥当か」
そういう話になっていく。
悠理は聞きながら、
(これがうまく行けば、子供が戦場に駆り出されて命を落とす事がなくなる)
と考え、学校の生徒の顔を思い浮かべた。
学校へ戻ると、バッと生徒達が集まる。
「土産は?」
「チョコバナナ買って来たんだろうな」
「雑誌だ雑誌!ここでは買えない大人の雑誌!」
「……ごめん。ない」
「なんだよお」
彼らはがっかりとして離れて行く。
「いや、だって、自由時間とかなかったし。ヘリで直接だから駅とか空港とかにも行ってなくて、売店もなかったんだよ」
悠理はそう釈明したが、誰も聞いてない。
まあ、校内での評価はこんなものだ。
西條と均が、くすくすと笑いながら
「沖川も悠理もお疲れさん」
とねぎらう。
沖川も実験を見ていたとして、同席したのだ。
「まあ、いいや。あとは別の専門家の仕事だしな。これで本当に、ゆっくりしよう」
悠理はそう言い、欠伸をした。
しかし、そうは上手くいかなかった。発表の内容が世界を駆け巡って研究者達を興奮させてすぐに、悠理を客が訪ねて来た。
ロシア人の老人と美少女だった。
その老人は悠理の祖母の兄で、美少女はその老人の孫だという。
そして彼らは日本に身寄りのなくなった悠理を引き取りたいと言って来たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます