第19話 メキシカンタコスとクラムチャウダー ☆☆☆

 魔王城の厨房に材料を運び込んでもらい、調理にかかる。

 もちろん近衛軍の営舎にも調理場はあるのだが、どうも話に聞くと設備が不十分で使いにくそう。できることは魔王城でやった方が無難だろう。

 で、問題の人数だが、難民が2000人ほど、近衛軍の兵士で今現在この街に居て昼食の必要な者がおよそ1000人だという。

 合わせて3000かあ。そんな数の料理なんて作ったことがないし、どれ程の材料が必要なのか見当もつかない。

 それで厨士長さんと相談して、まあこのぐらいあれば何とか、という量を準備した。それはなんと!


 まずタコス用に


   トウモロコシ粉:120キログラム

   小麦粉:120キログラム

   トマト:2000個

   レタス:400個

   チーズ:30キログラム

   牛肉:200キログラム

   豚肉:200キログラム

   タマネギ:1500個

   卵:1500個

   その他、青トウガラシ、ニンニク、ライムなど


 クラムチャウダー用に


   クラム:殻付きで400キログラム

   タマネギ:300個

   セロリ:300本

   ジャガイモ:1500個

   小麦粉:30キログラム

   ミルク:150リットル

   生クリーム:40リットル

   バター:20キログラム


 という

 え? 何で今回はポンドやガロンじゃなくて、キロやリットルで表すのかって?

 まあまあ、細かいことはいいじゃないふふふ、実はそれは読者にわかりやすいようにだよ


 これ程の量の食材で料理を作るとなれば、当然に魔王城の厨士だけでは無理だ。

 それで近衛軍の料理人さんたちにも応援に来てもらって、まずはタコスの皮トルティーヤ作りと、煮込みの必要なクラムチャウダーの準備から始める。



 トルティーヤは100人分ずつ作るとして、1回に8キログラム。

 4キロずつ等量のトウモロコシ粉と小麦粉に1.5倍量のぬるま湯をいれて混ぜ、とにかくねる!

 トウモロコシ粉だけでもいいんだけど、風味に少し癖があることと、ツナギにする粘り気を考えて、半分は小麦粉にする。

 ある程度まとまってきたところで、打ち粉をした台の上に移し、またひたすら捏ねる!

 これがとにかく重労働。

 4~5人分なら7~8分もあれば終わるんだけど、なにしろ1回に100人分、それをなんと 30倍 だからねえ。麺作りみたいにシコシコのコシは求めないとしても、結構な労力と時間がかかる。厨房内の半数以上は、まずはこれに専念だ。

 生地は捏ねあがった順に乾燥しないように布で覆い、しばらく寝かせておく。



 同時進行で煮込みに時間のかかるクラムチャウダーを仕込む。まず良く洗ったクラムと水を超・超大鍋(ざっと500人分!)に入れ、強火にかける。沸騰したら弱火にし、蓋をして軽く煮る。

 クラムの口が開いたら鍋から取り出し、殻から身を剥がして細かく刻む。

 煮汁は捨てないで別にとっておく。この煮汁にもう既にいいダシが出てるから。

 二枚貝の身からは簡単にいいダシが出る。。ほーら、もう新鮮な貝類特有のいい匂いがするでしょ。

 空になった鍋にバターを入れて熱して溶かし、細切れにしたタマネギ、薄切りにしたセロリを加え、少量の塩をして軽くかき回しながら炒める。

 1センチ角の賽の目に切ったジャガイモを加え(これがまた超・超大量!)、わっせわっせと炒め合わせたら、さっきの煮汁の一部を入れ、蓋をして弱火で15分ほど煮る。

 中火にして小麦粉を入れ、軽くかき混ぜて少し置き、なじませる。

 小麦粉はとろみを補うためだから、少な目で充分。

 本当はジャガイモを半分以上煮溶かして、そのとろみだけで作りたいんだけど、今日は時間がないので小麦粉を使う。

 残りの煮汁を少しずつ加えて、混ぜ合わせる。

 そして中火にし、ジャガイモが柔らかくなるまで煮る。



 ここで、クラムチャウダーの様子は数人の料理人さんに任せておき、タコスの調理に戻る。


 大量の卵は全てゆで卵にし、やや小さめの角切りに刻む。

 ゆで卵もこれだけの量になると殻を剥くだけでも大変だ。

 まあ、どうせ刻むんだから、剥き方の綺麗さはあんまり気にしないでいいんだけどね。

 レタスは冷水にさらしてぱりっとさせた後、短めの千切りに、トマトは小さめの角切り、チーズも薄く小さく、幅3~4ミリ、長さ1.5~2センチほどに刻んでおく。これらは全て別々の器に入れておく。


 さあここで、タコミートを作りましょう!

 タマネギをみじん切りに、涙が出そうなのをこらえて、切る、切る、切る。あっはっは!

(なぜ突然に笑う?!)

 それはね、メニューの構成にも調理の仕事にも、やっぱり遊び心とリズムが必要だからだよ。えへへ。

(遊び心はともかく、笑い声と調理のリズムがどう関係するのだ?)

 え? わからない?

 適度な笑い声と笑顔が作る楽しい雰囲気、それが調理場のやる気とハーモニー、そして快適なリズムとタイミングをまとめるんだよ。さあ、やるぞぉーってね。

 大事なところやつらいところで料理長が暗ーい顔とかしてたら、みんなどう思う?

(偉そうに……)

 はいはい、偉そうですよ。

 とか、ウルサイのは無視して


 さあ、みんな! 肉をミートグラインダー挽肉器。ミンサーとも言うに入れるんだ。挽き加減は食感の良さを考えて粗挽きだよ。そして挽きあがったら等量の豚肉と牛肉に、少々の塩胡椒とナツメグを混ぜるんだ。

 タマネギをしんなりするまで炒め、そこに挽肉を入れて更に炒める。

 牛肉だけでもいいけど、肉汁多めの濃厚感からすれば、やっぱり合い挽きの方がお勧めかな。豚肉の豊富な脂身の肉汁と牛肉の旨味が混じり合って、やっぱり、わっはっは、で幸せかな? きっとそうです!



 さて、ここでクイズです。

(またか!)

 今までの工程で、何かひとつ、大切なものが抜けています。

 それは何でしょう?

(今回は3択ではないのか?)

 はいはい、ツッコミより答えをどうぞ。

(うーむ……)

 おわかりになりませんかぁ。はい、時間切れ。それはソースです。

(時間が短い!)

 まあまあ、解答者の皆さん(?)そう興奮なさらずに、落ち着いてくださいよ。


 ということで何のこっちゃ!、タコソース。

 ふふふ、私に抜かりのあろう筈はない。

 それは監督や指示の合間に作ってあるのだ。

 決して偉そうにばかりしていたり、サボっていた訳ではないのだよ。

 ソースの味を決めたり、料理の最後の味の確認はやはり責任者の仕事でしょう。


 とにかく人数が人数だけに、これもまた大変な作業だった。

 具材に野菜を豊富に使うからソースには少な目でいいとしても、トマトが1人あたり4分の1個として全体で750個、タマネギが6分の1個として500個、運び込んだ総数の相当分を使う訳だ。


 それらをまた、とにかくみじん切りにする。切る、切る、切る!

 トウガラシとニンニクはお好みの量でいいんだけど、今日は子供や、辛いのが苦手な人もいるだろうから、辛口、中辛、甘口と3種類作るとして、ニンニクも無難に控えめにしよう。そして、これらも(トウガラシは種を取って)切る、切る、切る。

 切った材料を全て強火で、軽く焦げ目がつくまでオリーブオイルで炒める。うーん、いい香り。

 炒めた野菜をボウルに入れ、マッシャーなどで潰して混ぜるうう、ここでミキサーがあれば便利なんだけど……

 途中で水を足して滑らかに。

 最後にライムを絞り入れて、塩で味を整える。

 ライムがなければレモンでも、ビネガーでも代用できる。


 刻んだピーマンやコリアンダーを入れてもいいし、アボカドソースもいいけど、好き嫌いがあるから、今日はシンプルなソースにする。

 あ、タコソースじゃなくて、サルサソースって呼び方もあるんだよね。でも、それを言うと、「サルサ」っていうのは本来が「ソース」のことだから、意味が重複しておかしい、なんてウルサ方の意見もあって……

 面倒だから、ここは単にソース、またはタコソースと呼ぶことにしよう。



 クラムチャウダーも柔らかくなったジャガイモの角が取れて、いい感じに煮えてきたみたいだ。

 ミルクを加えて塩胡椒で味付け。そこに薄切りにしたマッシュルームを入れて更に少し煮る。

 最後に刻んだクラムの身と生クリームを入れて、ひと煮立ちさせたら、これで出来上がり!

 うーん、このとろーり感と貝のいい匂いが食欲を誘いますねえ。

 クラムの身は最後に入れるんだよ。そうじゃないと固くなっちゃうからね。



 さーて、

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