第13話 ガイアさんの大規模凍結魔法

「魔導大戦よりもずっと以前のものですね。上層階は銃やロケットランチャーなどの通常兵器の工廠。地下深く下層に行けば行くほど、戦術核や弾道ミサイル、毒ガスや細菌兵器とかの超危険なシロモノの研究所、秘密工場、倉庫になってます」


 と、私が言うと、ガイアさんは驚いた様子で尋ねてくる。


「しかし、なぜアスラがそんな事を知っておるのだ?」


 ありゃりゃ、ゼブルさんは報告してないのか?

 で、私は説明した。


「だって、3か月ぐらい前に最下層まで攻略しましたから」

「「「な!?」」」

「まあこれが兵器関係の施設だけあって警戒が厳重で、あちこちに良く出来たトラップはあるわ、警備のロボット兵士はうじゃうじゃいるわで、大変だったのなんのって。なのに残ってるのは武器や兵器の現物や設計図、研究データばっかりだったんですよ」

「そうか。妾が思うに、

「せっかく苦労して最下層まで行ったのに、料理のレシピはもちろん、ゲームやアニメも全然なくて、有るのは使えもしないアブナイ兵器の資料や現物ばかりとか、どう思います? ぺらぺら、ぺらぺら……」


 あれ? 調子に乗って喋ってたら、なんかチャウチャウ氏とチワワ嬢が2人して私をジト目で睨んでるような。何でかなー?

 ガイアさんが言う。


「その件については後でゆっくり話を聞こう」


 


(まあな。3つの勢力が微妙に均衡を保つ、暗黙の不干渉約束地域だからな)


 えーっ! 聞いてないし。


(それは魔族と亜人の勝手な都合で、お前には関係ないではないか)


 詳しい説明求む!


(後でガイアにでも聞け。今はそれよりも……)


「問題は、今回もまた遺跡に無断で侵入した輩が居るということじゃ。そして、侵入者は魔族ではなく、ドワーフでもエルフでもないとすれば、ヒト族以外にはあるまい。アスラよ、どうすれば良いと思うか?」

「え、何で私?」

「新たな魔王であるし、この遺跡に入った事のある、この場で唯一の者だからな。当然ではないか。侵入者が内部の武器や資料を持ち出すのを防ぐにはどうしたら最善か?」

「うーん……」


 やっぱりまずは状況把握かな。

 そこで私は感知の能力を働かせて、遺跡内部のヒト族の生命反応と意識を探った。

 すると、幸い、まだ比較的地上に近い浅い階層にいるみたい。

 まあね、私たちでもそれなりに苦労したぐらいだから、そんなに簡単に深い階層まで至れる筈はない。

 数はおよそ30名。10人ほどからは魔力も感じる。きっと教会の術者だな。

 とすると、最善手は……


「よし、決めた!」

「どうするのじゃ?」

「感知で探ったら、侵入者の中には魔力を持った者もいます。転移の能力で兵器や資料を持ち出されたら厄介だから、まずは。瞬間転移の能力者はそうそういないので、魔法陣を描く前に」

「中の者は凍死するかもしれんぞ」

「それは仕方がないでしょう。遺跡に入ったからには、戦いや罠で命を失うのは覚悟の上じゃないんですか。冒険者も侵入者も、その点は一緒ですよ」

「獣王の時とは違う。今度は直接にヒト族が相手じゃぞ。

「もう既に敵に回してますって」

「よし分かった! 『まずは』という事は、その後があるのじゃろう? アスラはその為に魔力を温存しておけ。遺跡を凍結させる役は妾が引き受ける」


 と言ってくれたので、ガイアさんに記憶を頼りに遺跡の概要を手短に話す。

 地上施設は殆ど残っていないが、本来の面積は東西にも南北にもほぼ正確に2マイルの正方形。

 地下はそのままの広さで最下層の80階まである巨大遺跡だ。

 天井の高さは各階層がおよそ20フィートだが、天井や床のコンクリートの厚み、それから3ヵ所ある大型兵器の工場は遥かに背の高い大きな空間なので、その事を考えると20×80=1600フィートでは足らず、余裕を見て2000フィートの深さまで凍らせたい。

 もちろん侵入者に時間の余裕を与えないように急速に!


「では今すぐやるぞ」


 という言葉と共にガイアさんは席を立った。

 チャウチャウ氏とチワワ嬢は、話の間ずっと、ぽかーんと口を開けた呆れた表情だったけど、ガイアさんがずんずんと速足で歩いて(それから私も)テントを出たので、慌てて付いて来た。


 まずは凍結魔法に巻き込まれないように、魔族軍、エルフ軍、そしてドワーフ軍を下がらせる。

 充分に退避したところで、ガイアさんが眼前の遺跡に向けて両腕を真っ直ぐに揃えて胸の前に上げ、そして両てのひらを開き微かに動かす。魔法の及ぶ面積と深さを掌の位置で調節しているのだろう。

 それが固定されたところでちょっと目を瞑る。集中して氷結冷凍の映像を心の中に描くのだ。


 それから僅か2・3秒。

 遺跡の地表面の赤茶色の大地からゆらゆらと水蒸気が立ち上り始め、それがどんどんと激しくなる。水分が蒸発し、対象の熱を奪っていっているのだ。

 すぐに辺りの地表がきらきらと輝き始めた。


 ううっ、寒い!

 まあ、これだけの巨大施設を一気に超低温に凍らせるんだからね。

 周りの空気も冷えるのは当たり前。

 ―――― そして10数秒の後、その輝きが一面を覆った時、ガイアさんは言った。


「終わったぞ! 80200


 さすがだ。

 この広大な面積を地下深くまで、こんな短時間で凍結させるとは!

 チャウチャウ氏とチワワ嬢は、ガイアさんのあまりの魔力に驚いて声も出ない。

 ぷぷぷ。瞬きひとつせず目が真ん丸。


 遺跡の中には、もう生命反応が感じられない。感知の能力でも転移した気配は感じられなかったので、死んでしまったか、仮死状態になっているか、それとも何らかの方法でレジストし、魔力を巧妙に隠しているかだ。


「これで妾の仕事は終わったが、この後どうするのだ? 如何に超低温とは言え、いずれは氷は解け、遺跡は元のようになってしまうぞ」


 私はそれに答えて言った。


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