第1話 愛しのマリア
「愛の世界で溺れたい」
僕の声が響いた。
きっと誰もが一度は夢見ることだと思う。魅力的な女の子、もしくは男の子にちやほやされて、愛されて、好き勝手することが赦される理想の世界。
夢が叶うなら、願うよね?
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窓の外から小鳥が遊ぶ声がする。
…何か夢を見ていたような、そんな気持ちで目覚めた朝。
突き抜けるように空は晴れていて、穏やかな日差しと少し冷たい朝の空気が心地よかった。
「ユウ!」
振り向くと、幼馴染みのマリアが無邪気な顔で笑っていた。彼女の明るい笑顔は秋の空のように僕の心をいつも晴れやかにしてくれる。
「今日も朝から大変ねー」
「ううん、大したことないよ!」
さも仕事をしていたかのように、僕は振る舞う。ホントはさっきまで居眠りしてたけど。
僕の家は畜産農家。だから、朝早く起きて、家畜たちの世話をしなくちゃいけないんだけど、ぶっちゃけ、毎朝こんなのやってらんない。なので、僕はこうやってコッソリ適度にサボる。
「今日、街までお買い物に行くんだけど、ユウも一緒に行かない?」
モジモジして、上目遣いにそう言うマリア。恥ずかしがりながらも、いつもこうやって積極的デートに誘ってくるのが、いじらしい。
「もっちろん!」
勢いよく彼女の方へ踏み出しかけて、ふと踏みとどまる。
さっきまで、牧草の中で寝てたんだった!
案の定、服には家畜の臭いが染みついていた。
「…シャワーを浴びたら、すぐ行こう!」
シャワーという言葉に何か連想したのか、マリアの顔はカァっと真っ赤に染まった。
「ほっぺも可愛い僕のマリア。
ちょっと待っててね」
彼女にウインクを送って、僕は家に急いだ。家畜の臭いと下卑た心に彼女が気づくその前に…。
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