陽マドンナ幼馴染と陰キャの俺。〜彼女に追いつくための道〜(短編)

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陽マドンナ幼馴染と陰キャの俺。〜彼女に追いつくための道〜(短編)

「凛ちゃん! 昨日出た雑誌見たよー! まじやばすぎ!」

「それな、凛めっちゃあの服似合ってたし、嫉妬すら起きないレベルだわ」



「ありがとう、そう言ってもらえると頑張れるよ!」


朝一から複数人に話しかけられ、ありがとう、と笑って返している話の中心の彼女。

中野凛花。そんなこの学校のマドンナで、雑誌モデルな彼女と、俺はなんと幼馴染らしい。


昔はよく遊んでいた。

ただ中学に入ったあたりから俺は陰。彼女は陽の道にわかれてしまったのだと思う。


黒髪ロングで、たまにポニーテール。目には大きめの涙袋とぱっちりとした二重で、目鼻立ちも整っている。

笑うとできるえくぼも可愛らしい。

神様は二物を与えず、なんていうがそんなのは嘘だ。


彼女はその類い稀なる容姿と、”努力”という才能を持ち合わせている。

定期テストの成績は毎回10位以内、50mも7秒代、ダンスもできて性格もいい。

なんなら歌もうまいし、話だって上手だ。


いくつか努力と容姿以外の才能も混ざったが、とりあえずそんな彼女だ。

もちろんモテる。

すごくモテる。俺もモテたい。

ただ俺はモテない。


なぜなら、定期テストの成績は毎回下から数えて10位以内、50mは9秒代、ダンスもできないし、性格はおどおどしていて何もできない。

歌も下手だし、人前で話すこともできない。むしろ話す機会なんて授業くらいしかない。


そんな俺だから、モテない。

自覚はしている。

確かにモテたい。ただ俺には努力ができない。

まともに続かないのだ。

気分で始めた筋トレも、痩せようと頑張ったランニングも。

計画的な勉強も。


そんな俺にはおしゃれも無縁の世界。

正直、もう俺は諦めていた。

彼女を作るなんてことも。告白をされる、なんてことも。


♢♢♢


朝、いつも通り学校への道を歩いていた。

気だるい1日の始まりだ、と。進める足が重たくなっていたその時である。


「おはよう、まなとくん。全然最近話せてなかったよね、久しぶり!」


「……⁉︎ ……っ。お、おはよう」


凛花……中野さんに、朝バッタリと出会ってしまったのだ。

出会ってしまったのだ、なんていうが別に避けているわけでもないし、毎日あってはいる。

ただ、二人きりで会うというのが久しぶりだった上に、陽の当たらぬ俺には、彼女の笑顔が眩しすぎた。


まともに返事も出来ぬまま、逃げるように足を早めた。


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……」


ほんの少し早歩きしただけなのに、息が切れる。運動不足を痛感するも流石に中野さんはついてきてないだろう。安堵した時のことだった。


「そんなに急いでどうしたの? もしかして今日日直だった……?」


陽の当たるところに影がないように、彼女からは逃げられないことを知った俺だった。

2人きりの状況では逃れることができない。


ものがあればそこに影はできる。

陽と自分の間に物、者を置くのだ。


途切れた息のまま、また少し足を早める。



♢♢♢


「はぁ……」


大きなため息をつく。

時計はすでに23時を回っていた。


どういうことだ。


俺は考えていた。

今朝以降、脳裏に中野さんの笑顔が張り付いて離れないのだ。

呪いか? 可愛い呪いもあるもんだ。などと思ってみる。

無論そんなことはない。じゃあなんだ? 恋か?


……それも違う。だって俺はとうに諦めている。

『おっきくなったらまなとくんのおよめさんになりゅの!』なんて幼馴染キャラの決め台詞はしっかり幼少期にいただいているが、だからといって期待もなにもない。


なぜなら。

俺は陰だ。

彼女は陽だ。


そもそも住む世界が違うのだ。と俺は諦めている。


確かに?

顔だってかわいいし、性格もいい。

それに俺には幼馴染だ、という他とは違うところもある。


だとしても……俺は……。






重い瞼を押しあけ、軽く伸びをする。

あのまま眠ってしまっていたようだ、アラームをセットし忘れていたが、運良く遅刻する時間ではない。


少し余裕を持って服を着替えると、キッチンに立ちパンを焼く。

焼いている間に部屋のカーテンなどを開ける。

陽の光が眩しいが、今日もいい天気だ。


ご飯を食べると、やってなかった宿題のプリントを軽く済ませて、家を出る。

父は海外に赴任中で、母は仕事で朝早い。


俺がいつも最後に家を出るのだ。

鍵を閉め、学校に向かおうと家の門を出たところで、中野さんに声をかけられた。


「おはよう、まなとくん」


タイミングが良すぎる……まさか待ち伏せか?


とも思うが、彼女が俺を待つ意味がわからない。

ただ昨日のように気まずいのも嫌なため、「お、おはよう、忘れ物をしたから、、、また学校で……」とだけ言い、玄関に戻った。


ドクンドクン、と心臓の鳴る音が聞こえる。

たった一言挨拶をしただけなのに……。こんなにも心臓が跳ねていては、もはや生活すら出来ないのではないか、少し自分のコミュ障ぶりが心配になった。



学校に行き、授業を受け、昼食を終えた後のことだった。

「もしかして、俺、中野さんのこと諦め切れてないんじゃね?」

なんて、ふと思ったのだ。


どうしてだろう、理由はよくわからないが幼少期に苦しんだ恋の病というやつの味が今になってぶり返してきていた。

“好き”だなんて甘い言葉なんかではなくて痛みの一種かなにかだろう。

骨折なんかよりも痛いなにか……。

浮かんだのはそう考えていたあの頃の気持ちだった。


もし仮に。俺が中野さんを好きだったとしよう。

俺はモテない。知っている。

今のままじゃ振られる。知っている。


じゃあどうする。

俺には才能なんてない。

あるのはこの脂肪とだっさい私服。


部屋の角で笑いながら話している彼女を見て、俺は重い決意をした。


♢♢♢


あの後すぐ夏休みに入り、今日は9/1日。始業式だ。


夜のランニングと、筋トレ。

男性向け雑誌を読みおしゃれも磨く。


鏡に映る俺は、以前の面影などなかった。

少しは自分に自信がついた俺は、家の扉を開けた。


比喩なんかではない。

世界が変わって見えた。

コントラストが変わったというのか、全てがはっきりとくっきりとしている。

淀んだ世界観だった自分の中の世界そのものが変わったかのようだ。


弾むような足取りで学校に向かった。


その途中。


「あ、え……まなとくん……?」


中野さんに声をかけられた。

以前の俺だったら逃げていただろう。

ただ、いまは違う。

俺も努力をした。

話す決意をする。


「おはよう、中野さん。今日から始業式だね、またよろしく」


おどおどせずに話すことができた。

視線は下を向いたままだったが。


俺の中の驚くべき進化にいままでの自分を恨んだ。


努力は才能なんかじゃない。

努力ができない人とできる人の違い。

それは至って簡単だ。


大きな目標があるか否か。

努力の先を見据えることができるか。


この二つだと俺は思った。


始業式そうそうだが、俺は中野さんを放課後に呼び出す。


待っている間の空気がこんなに重たいとは思わなかったが。


「まなとくん、どうしたの?」


タッタッタ、と小走りで中野さんが姿を表す。


「言いたいことがあるんだ。俺は中野さんのことが。小さい頃から好きだった。でも俺は自分に自信を持てず、話すこともろくにできない。その上には全てを挑戦する前に諦めてしまっていた。君のおかげで、努力できたんだ。ありがとう。俺と、付き合って欲しい」


心のうちを絞るように言葉にする。


「ふぇ……私で、いいの……? 私からも、お願いします。まなとくん!!」


そう言ってもらえた時の安堵と、努力が実った時の達成感と言ったら、一生忘れないだろう。


陽の当たるところに影はささないが、陽のないところにも影はささない。


目の前で顔を赤くしている凛の手を取る。




俺たちの人生はまだ始まったばかりだ。

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