海は唄う

どもども

一部

やっと、暑い車内から出てこられた。

私はふらっとしながら、太陽を手で隠し、額の汗をぬぐう。

水筒の水を少しだけ出して顔に当てると、ひんやりと私の顔に当たりながら、足元にぽたぽたと落ちていく。

ここは、ちょっとした休憩場なのだが、私たち修学旅行生しかおらず、貸し切り状態でいつもの三人衆が叫びながら、アイスでも食ってるのであろう。

すこしエリアを出ると、草むらで開けた場所がある。その場所は確か牧場となっていたが、牛などの姿は無くて、ただ波の音しか聞こえない。

「ちょっと休むか」海との断崖の所に腰を下ろす。息を深く吸い込み、海の風を体いっぱいに取り込む。

海の独特の匂いと風味が、やっと夏を体に知らせる。海には、旗を掲げたタンカーが鈍い音を出しながら進んでいる。

「おい。」杉田の声が波に紛れて聞こえる。「はい?」少し語尾を切りながら、あたかも怒っているように発声する。

「いや、なにしてんのかなーって」杉田はサイダーの瓶を持ちながら、ドカッと隣に座り込む。

「ここ、景色いいよなー」「え?」変な声が出てしまい、横目で彼を見る。

彼はあぐらをかき、ただ海の一点を見つめている。ふざけの親分である彼にこんな感性があるとは、「ほら、そこ。」ん?よく見ていると、島が霧がかって見えている。


「あれさ。母屋島って言うんだぜ」「へ~」カラカラとビー玉が揺れ、ニタッと笑う。

ふ、なんじゃそら。「それ、どこで売っとったと?」と聞く。

「ああ、サイダー?これはサイダーじゃなくて、水。サイダー瓶に入れて持ってきたと。」ふ。なんじゃそら。

「ほら、見てみ」サイダー瓶を太陽に当てキラキラと光らせる。太陽に当たったビー玉は

色んな所に光を反射させながら輝いている。


「なあ。想像してみてよ、この国にさ。戦争がなくて、みんながこんなキラキラ輝いていたらさ。いいよな~」

「あの海みたいにさ、ずうっと、光続いているのを見れていたら、どんなにいいことか」そう言った途端。

空襲警報が鳴り、「こっちじゃ~。はようこい。」と主任の声が聞こえる。

「ほらいくぞ」杉田が立ち上がり手をつかむ。ここから、あの洞窟まではどのくらいだろう。

しかし、到底間に合いそうにない。

「杉田。こっから行っても間に合わん。あそこのトタン屋根の家に行こう。」

「バン」と対空砲の音が聞こえ、私たちはぐるりと体制を変え走り出す。

鈍い音が聞こえ、海を見てみると、母屋島が真っ赤に燃えている。

「あ、あれ」杉田は私の声を無視しながら、扉を、思いっきり開け体を投げこむ。

窓は左右に揺れガタガタと音を立てる。「杉田!」

起き上がった杉田は、真っ青な顔で私を見つめる。

すぐ上を爆撃機が飛び、市街地の方へ進んでいく、私の背にある窓を見ると、あの洞窟が崩れているではないか。

バスはまだしも休憩所は助かったのになぜ?なぜ?・・・海は大地を飲み込みながら静かに音を立てる。130人の命に向かって。

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海は唄う どもども @sosoalways

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