ゆめ
@DieForChikuwabu
十月八日、夜
歌を歌う、夢を見た。
それは何か体験入部のような場で、私には歌詞が書いてある紙を渡されていたが、なぜかその紙はクッキーの紙袋のようにマチ付きの袋状になっていた。
部屋は薄暗く、私の隣には緊張しビクついているふくよかな女の子が、私と同じく体験入部者として歌詞を握りしめている。テーブルの角を挟んで先輩らしい小柄で可愛らしい女性がマイクを前に立っている。ワン、ツー。
歌が始まった。私の知っている歌だったので、歌詞は見ず前を向いて歌った。一緒に歌った同じ体験入部の彼女があまり上手でなかったので、性格の悪い私は安心して気持ちよく歌っていた。
驚いたのは、先輩が二番を歌い始めたことだ。
私は無事一番を歌い切ったので安心していたのだが、急に二番が始まった。しかも先輩が、とんでもない歌唱力で、しかも英語で歌う。
私は焦って歌詞の紙を見た。英語の歌詞なんて書いてあったか?無いぞ、ああ、裏か。確かに英語が書かれているようだ。しかし薄暗くて手元の小さな照明だけではよく読めない。今どこを歌っているのか、必死で追っているうちに歌はサビ部分に差し掛かる。
隣の女の子が歌い始める。サビは体験入部者が歌うのか!私はサッと青ざめた。彼女は、ちゃんと歌えている。しかし私は、歌えていない。どこを読んでいる?曲調も変わっているし、気づけば先輩もハモっているし、今私が完全に取り残されている。
やめよう、この夢!
私は目を覚ました。あんな展開になってしまっては、夢なんて見ない方がいい。しかし困ったことに、目は覚めたはずなのに歌声が止まない。頭の中で鳴り響いている。
脳内に響く歌声から逃げるように私は頭を振り、よろめき、うずくまりながら必死で手元のアイフォンを触った。何か、何か別の曲を聴こう。何でもいい、この歌声から逃げられたら…。
こういう時に限って操作が上手くいかない。指紋も認証されないし読み込みも遅い。アップルミュージックを立ち上げてホームに置かれた適当な曲を再生する。先ほどまで私の頭にまとわりついていた歌声が嘘のように消えていく。どんな曲調だったかも覚えていない。私が再生させた、その曲もまた、私は忘れてしまった。なぜならそれも含め、全部夢だったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます