とある天狗と蛇神様
猫家 凪
第1話
木のはが揺れてカサカサと音を立てている。
ほとんどの葉が木から落ち、そろそろ寒い冬がやってくる。
乾燥した風が山を通り抜ける。
「てんぐー!魚取ってきたー!」
木の隙間を抜けて少女が走ってきた。
古びた神社のお社の上では天狗と
「たくさん捕ったな、もも殿。今日の残りは干しておこう。」
「わかった。じゃ捌いてくる。」
「気を付けてな。火は私が起こそう。」
「はーい。」
それを聞いていた蛇神が上から狛犬に声をかけた。
「おい狛、ももについていっておくれ。日が落ちるが早くなったからの。」
すると狛犬の一匹が動き出した。
狛犬は石ではなく、大きめの柴犬のような姿に変わった。
「
と台座から降りてグーっと背伸びする。
「狛殿、よろしく頼みます。」
ももと狛犬は木の間を抜けて洞窟の方へ歩いて行った。
「ももが来てからもう十四年になるじゃろ。」
天狗が上に戻ると蛇神は言った。
「早いものです。ちょうどこの時期でしたね、ももがこのお社に置いて行かれたのは。」
小さい村にある、小さく廃れた神社に生まれたばかりのももは置いていかれた。
貧しい家に双子を育てる経済力はなかったのだろう。
両親が泣きながら桃色の半纏に包んだ赤子をお社に置いていったのを覚えている。
母親の腕には黄色の半纏に身を包んだ赤子がすやすやと寝ていた。
「天狗、ももを今後どうするの決めておるのか?」
天狗に育てられたももは妖が見えたり身体能力が異様に高かったりと、普通の人とは違う部分が見受けられる。
このまま山で生活させていくのか、人の世界に戻すのか決めなければいけない。
ももの面倒を見始めたとき、蛇神から最初に言われたことだった。
黙る天狗を見て、蛇神はため息をついた。
「だから情が移る前に他の村へ下ろせと言ったではないか。」
「面目ない。」
「身体能力は仕方ないとしても、人里で一年も過ごせば妖も見えなくなるじゃろ。」
「このまま山で生活するのは人間にとって厳しいとは思っているのですが……。」
「まぁ、ももと話してみることじゃな。余は散歩にでも行くとしよう。」
そう言うと蛇神はフッと消えてしまった。
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