【戯曲】廃駅

容原静

一景

一景


廃駅

降雨

白いベンチ

座る仲川ミズキ

やってくる星野ススム



星野 やぁ。君は返事をしないんだね。

仲川 答えてほしいの?

星野 そりゃあ。挨拶しても甲斐がないほど虚しいことはないから。

仲川 そりゃあ傷つきやすいことで。

星野 横座ってもいいかい?

仲川 なぜ私に聴くの?

星野 固有結界を持っている方ならしんどいでしょ。

仲川 私そんなんじゃないよ。

星野 じゃあ座らせていただきます。どうして君は此処に。

仲川 友達が教えてくれたから。

星野 居心地がいいのかい。

仲川 なぜ質問ばかりするの?

星野 人との喋り方を知らないからさ。

仲川 こんなにぺちゃくちゃ喋っているのに。

星野 そうさ。不思議かい?

仲川 不思議。

星野 世界は不思議で満ちている。これもまたその一つさ。

仲川 うまくかわされたような気がする。

星野 僕は君が此処にいるって噂で聞いてやってきたのさ。

仲川 あなた。

星野 星野といいます。

仲川 仲川といいます。

星野 君とはクラスメイトさ。

仲川 別に知ってますけど。星野さんってストーカー?

星野 まさかそんなわけないよ。

仲川 私たちクラスじゃ話したことないよ。

星野 でも今話しているじゃないか。

仲川 ようはなに。

星野 ただしゃべりたかった。それだけじゃいけないかい?

仲川 別にいいけど、ただ話したいならなんで学校で話さないの。こんなところでわざわざ出逢わなくともよかろうに。

星野 色々あるでしょ。あそこじゃ話せないから此処にやってきた。

仲川 やらしいの。

星野 やらしくないよ。健全さ。

仲川 どぉこが。

星野 こんなところにも制服でやってきている。健全じゃないか。

仲川 むしろ不健全だよ。

星野 うっそだぁ。

仲川 君は色々と見当はずれだよ。

星野 おかしいなぁ。

仲川 馬鹿なの。

星野 それは間違いない。

仲川 やけに素直ね。

星野 それが売りなので。

仲川 そういうの口にしない方がいいよ。美徳に傷がつくよ。

星野 傷ついて損するものなんて僕にはないから大丈夫。

仲川 馬鹿っ!! 滅多なこと口にするもんじゃないぞ。

星野 あのー。

仲川 はい。

星野 怒りました?

仲川 別に。

星野 怒りましたよね。

仲川 怒ってない。

星野 怒った。

仲川 しつこいなぁ。あんた誰よ。

星野 星野です。

仲川 そんなこと聞いてない。

星野 じゃあなにを?

仲川 なんでもいいでしょ。

星野 うっそだぁ。


スマホを取り出す仲川


星野 どしたん? えっ。うん?

仲川 はい。なんていうか身の危険を感じておりまして。

星野 ちょっと待って。えっと。はい。

仲川 このままじゃ本当に私どうなることやら。

星野 あーー。うそだ。


着信を切る仲川


仲川 嘘じゃないよ。本当のこと。警察にお電話していたの。

星野 なんでさ。どうしてさ。何も悪いことしてないだろ。

仲川 してるよ。私、貴方とただのクラスメイトで学校で一度も喋ってない仲だよ。こうやって話したくない相手と義理で話するには少し長話が過ぎなくて。

星野 そらそうだ。でも。なんていうか。

仲川 煮え切らないわね。はっきりしない人わたし嫌いよ。

星野 嫌いだなんて、そんな。

仲川 何傷ついているんですか。もしかして私のこと好きとか。あっ。ほう。ふむ。なるほにょ。図星、ですか。

星野 図星で何が悪いんだ。

仲川 開き直るんですか。

星野 うぐぐ。

仲川 どうなされましたん。

星野 俺のことはほっておいてくれ。

仲川 言われなくてもほっときますけれど。

星野 悲しいなぁ。

仲川 自作自演よ。

星野 悲しいよ。

仲川 慰めてあげられなくてごめんよ。

星野 辛い。

仲川 死なないで。強く生きて。

星野 生きてなんていられるかぁ。


猛ダッシュで退場する星野


仲川 追いかけてほしいみたいだけどごめんね。私好きでもない人、追いかけないから。


少し、間


仲川 雨ばっかりやになっちゃうな。これじゃ星も見えないじゃん。


暗転

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