ログイン33 実戦を行え、今ここで!
「まぁまぁじっとしていろよ、レオニカさんよ。我だって好んでこやつに刃を向けている訳でもなければ、ましてや傷つけようとは思っておらん。まぁ、お主が変な気を起こさなければの話だがな」
首元に突きつけられた切先が、更にザキナの皮膚に近づく。表皮が切られたのだろうか。赤い液体が首元から一線を描きながら流れ落ちると、地面に染みを作り上げた。同時に、ウゥといううめき声に近いものが、辺りに静かに鳴り響く。右手で血管がはち切れそうなほど力を込めていた礼央であったが、その声を聞いた瞬間その力を解放させていった。
「何が望みだ。どうすればザキナを無傷の状態で解放してくれる」
「利口で助かるよ。この状況で圧倒的強者、その牙を収めるのは容易じゃないような。そのクレバーさを少しあいつらにも分けてやって欲しい程だ。我があやつらを振り回しているようで、実の所あやつらの所為で我が頭を悩ませていることすら気づいておらんのだからな」
「何を話しているんだ? さっさと、要件を伝えろよ!」
「すまぬ、こっちの話だ。なぁに、あまりにもこちら側の要求が単純すぎてな。話を続かせようと気を配ったつもりだったが、それが返ってお主の気を悪くさせたようだ。おい! さっさと出てこい!!」
礼央は、目の前の男の一挙手一投足を見逃さないよう、瞬きのタイミングすら神経をすり減らしていた。だが、奴にとってそんなことはどうでも良いことのようだ。緊迫したこの空気にそぐわない笑みをこぼしてみたり、礼央と対照的に時折大きく視線を別のところに動かしたりしている。まるで、誰かに合図を送っているかのように。
「やっと呼んでくれたのかい? リーダーよ!!」
「何が起きても動じることのない慎重さ。これは、今後私たちの上に立つ存在としてより有意義に働きますね。それに、先を見通せる目を持つ者もいるのですから。ねぇ、リーダー?」
三人しかいなかったこの通りに、突如として人影が増える。その数は二人。音もなく現れたかと思うと、各々が口を開き礼央からしてみると訳のわからないことを口走った。その中で、一つ分かったことがあるとするならば、剣を握る男がリーダー格の人物であるということだけだ。
「んでよ!! こいつが、例の男なのか!!?」
屈強な体つきで、服の上からも分かるほど筋肉で隆起している。肌はこの中で誰よりも焼き焦げており、焦茶色の肌の色がいやに目に付く。それがより一層黄金率のような美しさを持つ筋肉美を誇張していた。
「だからそうだと言っているじゃないですか。なんで、あなたはいつも連呼しないと理解が及ばないのですか」
そんな彼を咎めるような言動を見せるもう一人の男性。先程の男性と比べると、細身の身体で弱々しく映る印象があるが、その実一度もブレを見せる事のない体の軸の強さがギャップとして礼央の頭に強く警鐘を鳴らした。
『どっちも⋯⋯ 誘いの森にいた奴らとは比べものにならないほどの強者だな』
心の中でつぶやくと、礼央は背中に冷や汗が滴り落ちているのを感じる。いくらゲームの中の対人戦は経験したことがあるとはいえ、ここではそんな経験は露ほど役に立たない。もちろん、相手のレベルや職業が分かっていない事もあるのだが、それ以上に命をかけた真剣勝負なのだ。そんなものは、現実世界では一度だって体験した事がない。
「で? 俺はこれからどうすればいいんだ? この二人のサンドバックにでもなれと?」
挑発するように語尾を上げて尋ねるが、そんなものが通用するような相手ではなかった。華麗に流されると、先程から一度も崩さない余裕の態度でリーダー格の男は、真意を告げる。
「そんなつまらぬことはせん。この二人を相手にして、実戦を行って欲しいのだ。今、ここで!」
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