ログイン11 付き合ってらんね〜よ!!
「え!? いきなり何の冗談だよ??」
「すまないな。事情が変わったんだ。お主だけは、先に忍び込んで捕らえた奴と同じ処遇で済ますことができんくなった」
囲め!! 指揮官の命に背中を押され、後方で保たれていた陣形が崩れる。そして、地面を高らかと震わせながら、数多の緑色の身体をした子分たちが、礼央との距離を縮めた。がむしゃらに距離を詰めるのではなく、統制の取れた一連の動き。瞬く間の間に、礼央は逃げ場を失った。
「理由くらいは・・・聞かせてくれてもいいんじゃないか?」
退路を完全に断たれたことを悟った礼央は、小さな声でそう呟く。
「・・・お主は、自分のその左手の力にどれほどの意味を見出しているんだ?」
「さぁな。この世界で目覚めてから、まだ数時間ほどしか立ってないんだ。分かるはずがないだろ」
「我の口から言えることはそう多くない。だが、冥土の土産として一つだけ話を聞かせてやろう。ある人から言われた言葉だ。時に、その左手の力は神に近い存在になり得る。人々は、それを讃え、賞賛の嵐が身に注ぐだろう。だが、同時にそれは、人をやめるということだ」
「何が言いたんだ?」
「・・・さぁ、話は終わりだ。静かに眠ってくれ、神の逆鱗に触れる者よ」
それが合図だったのだろう。突如として、一番礼央の近くまで歩み寄っていた怪物が飛びかかってくる。はち切れんばかりの筋肉を身につけた身体の影に隠していたのか、礼央の視界に、振り上げられた棍棒がチラリと入り込む。だが、あくまで視認できただけだ。
ドカッッッッ!!!
振り上げた棍棒が地面と衝突する乾いた音。舞い上がる粉塵と共にこの場に襲いかかったそれは、そこまで長い時間滞在するものではなかった。次第に視界が鮮明になっていくにつれて、気がつけば意識の向こうに追いやられていた。
この場にいる皆が気になっているもの。それが、聴覚では感じることができないからだと理解していたからだろう。視覚にのみ得られるそれを、ズレた王冠を直しながら、静かに見守る。
「どうなっているんだ・・・!?」
せっかく位置を正した王冠が、再びズルりと横にずれる。今度は、攻撃による振動で、ポジションが移動したのではない。余りの驚きに、無意識に顔を突き出すような動きを急に取ったからだ。
「なぁ、俺も一つだけ教えといてやるよ。お前らが・・・誰に喧嘩を売ったのかってことを」
棍棒による強力な一撃を受けたはずの男が、今まさに悠々と口を開く。本来なら意識を失って、地面に伏しているはずの男がだ! しかし、現実にはそれと全く逆の現象が起きていた。
攻撃を仕掛けたはずの怪物が、地面でピクリとも動かずに倒れ尽くし、男は余裕で笑みを浮かべている。彼の右足の下には、踏みつけられる振り下ろされた棍棒。それを視界におさめた指揮官は、震えをあらわにした。
「あのタイミングで回避したというのか・・・!!?? 必殺の瞬間だったんだぞ??」
「おいおい!! 俺の心配をする前に、子分の心配をしてやれよ。かわいそうだろう?」
うぅ、という小さなうめき声が微かに漏れる。その瞬間、はっとしたように指揮官の意識は倒れている怪物に向いた。
「大丈夫か!!」
返事は返ってこない。まだ、完全にダメージから回復したわけではないのだろう。しかし、ほんの僅かな声だけでも目の前の指揮官からは、燃えるような殺意が溢れ出ることになったが。
「皆のもの、一度退け!! スペースを作るんだ!!! こいつは、我が直接手を下す」
「お〜、それはそれは・・・。いいの? スペースなんて作っちゃって」
ゾロゾロと音を立てながら、感じていた圧迫感が胸の奥から解消される。どうやら、本当に先程までの逃げ場を潰す陣形を解除したみたいだ。
「構わん。お主だけは・・・我が直接手を下すことにした。最後に、名前だけ聞かせろ。さすれば、我の記憶の中だけでもお主は生きていける」
「お優しいね〜。でも、聞かない方がいいかもな。だって、この世界じゃあ、俺の名前を聞いただけで、震え上がるプレイヤーがいたくらいなんだぜ?」
「早く言わんか!!!!」
「俺の名前は・・・サー・レオニカ。世界トップランカーに常に降臨した男の名前だ!!!」
「聞いたことのない名前だ、散れ!!!!!」
指揮官は、会話が終わると同時に地面を抉り、礼央との距離を縮めた。その余りの速度に、奴の周りでは突風が生じ、木になっている緑色の葉が数枚宙に舞うほどの勢いを宿す。それほどまでの加速度なんだ。絶対にその速度に耐えられないものがあるどだろう? 彼が身につけていた物の中で。そう、それは——。
「あー!!!! 我の大事な王冠がー!!!!!」
遥か後方に、自然の法則により飛ばされる金色の王冠。生い茂る葉の隙間から漏れる光を、全て反射させる。まるで、自分の居場所を誰かにずっと知らしているようであった。
「お主・・・、瞬間的に攻撃を繰り出したのだな!!!!」
「付き合ってらんねーよ!!!!」
礼央はそう言葉を吐き出すと、今にも飛び出しそうになる鼓動を隠しながら、誰も邪魔者がいなくなった退路目掛けて駆け出していった。
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