ログイン10 お主だけは・絶対に・・!!

「おい、お主! お主はここがどこか分かって、この行動に出ているのか?」


 声が聞こえてきた方向に首を回転させる。移り行く視界に捉えるのは、木々に生い茂る新緑の色よりとは少し異なる体色。それでいて、人間よりも屈強な肉体を、服で隠すことなく見せつける怪物が、群れを為していた。


森とほぼ同化しているからか、その数までを一目で確認するのは困難を極める。推測ではあるが、20数体はいるだろうか。その中でも、とりわけ目立つ存在があいつだ。三角形の形に群れを形成する中で、頂点に君臨する王冠を被った怪物。あいつだけ、その他大勢の中でも異彩を放っていた。


「ここは、誘いの森っていうところじゃないのか? マップにも、そう記載されているし」


「地名の話はしてないわ!! これを見ろ!!」


 怪物の手から木片が放たれる。それは、空中で何度か回転を見せると、礼央の近くの地面に器用に突き刺さった。怪物から視線を逸らし、その木片に目を送る。どうやらそれは、ただの木片ではなく、看板であった。よく見れば、薄れてはいるが文字が書かれている。


「立ち入りを禁止する? え、ここって立ち入り禁止なのか?」


「そうだ!! 良かった、お前は文字が読めるみたいだな。神の粛清対象ではないが、なぜ文字を読めるのにこんな冒涜を犯したんだ!?」


「いや、ごめんよ。この看板の存在に気づかなかったんだ。シンプルにそれが理由」


「気づかなかった! なるほど、それは我々の落ち度だな。もっと看板の数を増やさなければいけないな。今日だけで二人の侵入を許しているんだ。これ以上は、ガルシオ様の機嫌を損ねることになるからな」


 指揮を執る王冠を被った怪物は、振り向きながら後ろに控える数多の部下に発破をかける。その言葉に反論することなく、彼らは頭を下げ、命令を黙って受け止めていた。


「取り込み中すまないが、ここって、誰かの所有地なのか? もしかして、俺何か悪いことでもしているのかな?」


「いかにも。ここは、この世界に五つしか存在しない王国の一つを司るホール王国の王、ガルシオ様の所有地である。各国において、法律とは既に廃れた文化ではあるのだが、この場所にだけは近づくことを禁止しているのだ。それを破った者には、即刻殺傷しても良い権限を、私は頂いている」


「え!? 俺、殺されるのか??」


「案ずるな。あくまで権限を頂いているだけだ。すぐにその罪を理解し、立ち去ってくれるのであればその方法を用いることはない。お主は、頭もキレる。こんな一つのミスで殺しては惜しい人材。だから、命までは取らん」


 良かった〜、と心を撫で下ろす。しかし、次の瞬間すぐ近くのマップに映る青いマークが、礼央の頭をよぎった。今、即刻この場から立ち去れば命は助かるだろう。しかし、ここまで歩いてきた努力と、この世界で初めてのスポットという魅力を手放すことに直結する。


「な・・なぁ。一つだけ相談があるんだが」


 気がつけば、礼央の口から無意識に言葉が漏れていた。


「なんだ? これ以上我々に何か譲渡しろという内容なら、それは断るぞ」


「あと少し行った先にある場所にだけ、立ち寄ることはできないかな? その場所に足を踏み入れた瞬間、すぐに回れ右して帰るからさ!!」


 目の前の巨体な怪物は、頭に手を当てながら考え込む仕草を見せる。


「ちなみに、それはどっちの方角にあるんだ? 我々も、ここに任務として派遣されている。あまり身勝手な行動であれば、それ相応の対応がある」


「ちょっと待ってくれよ」


 礼央はその言葉を発すると、で1の数字を作ると、そのまま振り下ろす。変わらず現れるシステム音と、未だ大半を茶色で占めるマップ画面。自分の現在地を即座に確認すると、青く記されている場所との方角を確認する。そして、マップに落としていた視線を、再び正面にいる彼らに戻した。


「ここから、北西方向に三分ほど歩いた場所だ・・・な・・って、どうしたんだ?」


 そこにいるのは今までの彼らとはまるで様子が異なっていた。落ち着いた口調で話しかけてくる姿はどこにもいない。荒々しい呼吸を口から零し、隆起する筋肉に更に強い力を込めていた。


使・・・!!! おのれ!! 我を騙したな・・・!?」


「騙したって何をだよ? ちょっと落ち着けよ、な!」


「お主は、いや、お主だけは・・・この先にあるに絶対近づけん!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る