ログイン7 さぁ、一歩めだ!!

「いててて・・・、何もあのおじさんそんなに怒らなくてもいいじゃないか!」


 頭のてっぺんにぽこりと浮かぶ山を手で擦りながら、一人礼央は口を尖らせる。結局、ゲームの世界に入ってしまっては、次の大洪水がいつ行われるのか、それを確認する手段がないことだけは分かった。つまり、あと数時間後にくるかもしれないし、あるいは一年後とかにくる可能性もあると言うことだ。


「はぁ・・。とりあえず、今はノアの方舟を探すことを第一目標として、動くしかないかな?」


 左手の人差し指を立てると、そのままゆっくりと下に向かって振り下ろす。システム音と共に空中に現れる、緑色と青色で塗りつぶされた地図らしき画面。だが、それはあくまで一部分のみ。正確に言うと、スクリーンの右側の部分のみ鮮やかな色が付いており、それ以外の大半は、薄汚れた茶色が支配していた。


「なるほどな。あくまで、俺がこの世界で行ったことがある場所しか、地図上に表示できないってわけか。つまり、この右下が・・・ホワイトヴァレットだな」


 海や川を青色。森などの自然が溢れる場所を緑色として表示されているようで、辺りを見渡してみても、この地図の正確性が分かった。幸いなことに、プレイヤーが今いる場所も表示されているので、迷うことはなさそうだ。


しかし、肝心な情報がまだこの地図には表示されていない。それは、この世界で生きていく上で最も大事だと言っていい情報。これが分からなければ、気楽に冒険なんてしている場合じゃなくなってくる。


「この世界のスポットは・・・どこにあるんだ? あれが分からないと、ゲームにならないだろうよ。もしかして、それも歩いて勝手に探せって言うのか?!」


 現実世界ではなかった大変さが、この世界では常識として染み付いているのか。長年、位置情報ゲームに魂をかけていた自分の本能が、ガンガンと警鐘を鳴らし、これが如何に深刻な状況に陥っているのかを、教えてくれているようであった。


 スポット——passengers of NOAHにおいて武器や経験値を獲得できる——は、現実世界では運営が各地にある目印となる物体に対して設定していた。それを、ゲーム画面で確認し、ある程度その場所で土地勘があるものであったら、容易に足を運ぶことができるのだが・・・。


「ここじゃあ、土地勘が無いのは俺の方。自然にスポットが分かるはずがないのも、ある種この世界の理か〜・・」


 礼央は、マップに落としていた視線から逸らし、目の前に伸びる道路を見据える。果てしなく続いているかのように、終着点をここから見ることはできない。しかし、妙に整備されたそれは、礼央の探究心を大いにくすぐる。こう言った先には、大抵何かしらの建物が多いことを、長年の冒険から礼央は理解していたからだ。


「どっちみちノアの方舟の所在は分からないんだ。だったら、無理せずゆっくりこの世界を探求しよう! そうしていたら、いずれスポットなり、レイドなりに挑めるようになるだろ」


 歩き出したサー・レオニカの足取りは、とても軽いものだった。彼の頭は、今新たな冒険に期待する気持ちで占有されているだろう。だが、彼は何も知らなかったのだ。この世界を覆う現実世界との大いなる乖離に。


 それが牙を剥く瞬間は、着実に彼の背中を追いかけていた。



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