ログイン2 帰りたいと言っても、帰れない!!
「うわっ! 何だよ、これ! 眩しすぎだろ!?」
突如としてゲーム画面から放たれる、視界を奪うほどの発光。礼央は、あまりのその強さに、スマホを遠ざけ、顔を背けることしかできなかった。本来なら、左手で顔を覆い隠すのが、一般的な反応だろう。でも、今、礼央の左手は自転車のハンドルを握りしめていたのだ!
さながら、宇宙の創造を連想させるほどの眩い光は、目を閉じていてもその明るさを感じることができるほど。暗闇しか返してこない瞼の裏も、今では赤色に染めている。それだけでも、目を開けられる状況にないことは、明らかだ。
「いつまで続くんだよ・・・。この光は・・・!」
早くこのレイドボスを倒したいのに! この心の本音は口にしないようにする。だって、誰かに聞かれでもしたら恥ずかしいから。それに、もし通りすがりの奴がこのゲームをプレイしていたらどうなる。先に、この未知のレイドを集団でクリアするだろう。そんなことは、絶対に、死んでも許されない!
「ふぅ〜。ようやくここに来てくれたか。待ちくたびれたよ、ほんとに」
「え? しまった!! 心の声が漏れていたのか・・・!? いや、ここには何も出ていませんよ? えぇ。ほんとかっそ過疎な地域ですので、レイドもゴミしか出てないですから!」
「いやいやいや・・・。何か勘違いしてるよ〜!! もう! 目を開けても大丈夫だよ?」
「うん? そういえば、目を閉じてても痛いくらいの眩しさは消えてるな・・・」
よぉし、と意気込みながらゆっくりと誰か分からない人の言葉を信じて目を開けていく。まず、最初にやるべきことと、その後に絶対しなければいけないことを確認しよう。まず、目を開け切ってから、周りの様子を把握だ。もし、後ろから車とか来ていたら危ないからな。こっちは、自転車も持ってるし。
問題は次の行為だ。今、礼央の隣には間違いなく話しかけてきた誰かがいる。何か籠らせながらさっきは返事を返してきたが・・・そいつは間違いなくこのゲームのユーザーだろう。
ということは、この言葉を口にしなければいけないだろう。開口一番に言わなければいけないことを、頭の中で何度かシミュレーションを行う。
『このレイド一緒に戦いますか?』
常にソロでの攻略を掲げてきた礼央からすると、それは考えられないことだ。別に、礼央がクリアしたからといってこのレイドボスはその瞬間消え失せることはない。ないが、レイドの時には、周りのユーザーに声をかけるのが暗黙のルール。それを、自分自身が破る訳にはいかない。
「このレイ・・・。って、どこだここは!!!」
「さっきから何をぐちぐち言ってるのさ。ここは、ノアの方舟の内部に位置するある一室。ノアの精霊である僕だけが、入ることが許された場所だよ。最強プレイヤー、サー・レオニカ」
見渡す限り・・・真っ白な世界。それは、無限を連想させるほど奥まで続いていた。光源に当たる物質は一切見当たらない。にもかかわらず、この場所は光に満ちていた。まるで、永遠に続く朝日のような光だ。何人をも優しく包み込み、心に安らぎをもたらせるかのような。
「ノアの方舟の内部——? ノアの精霊? 何を言っているんだ、あぁゲームのやりすぎで頭がおかしくなったのか。じゃあ、俺のプレイヤー名も知ってるのも当然か。俺も、すでに気が狂うほどこのゲームやり込んでるし」
「いや、ごめん。そういうことじゃないんだけど!」
「ははぁん! このゲームが好きすぎて妄想だけで、こんな場所を作り上げたんだな! すごいな・・この発想は俺にもなかった。この扉なんて、本当にゲームに出てきたノアの方舟のそれにそっくりだぞ! 俺も帰ったら作ってみようかな。いや、まだ今日の日課の距離歩けてないから、無理か・・・」
「もしも〜し!! ここが、ゲームの中の世界だから当たり前だよ!!! このゲームを、地球上で一番愛している君だからこそ、この世界に本当に招待してあげたんだよ!!!! 逆に、帰りたいって言っても帰れないから!!!」
「え・・・? マジ・・・?」
「はぁはぁ。ようやく・・僕の声が聞こえたみたいだね・・・」
呆然と息を呑む礼央とは対照的に、目の前の精霊と名乗ったヤツは酸素を求めるように、呼吸数を増やしていた。
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