疲労と夜空

一色 サラ


 終電の電車に壮太は、残業続きで疲れて体を座席のもたれて、ウトウトと眠っていた。

 キッキキーという音と共に、電車が急に止まって、目を覚ました。

『キャー』という女性の悲鳴のような声が聞こえてきた。壮太が目を開けると、車内が真っ暗になっていた。何が起きたが分からないが、向こう側の窓から雨上がりの夜空が広がっていた。車内アナウンスは流れてこない。

 車内はどうしようもなく、静かだった。ただ、誰かの声が微かに聞こえてきた。たぶん、誰かと電話をしているのだろうか。混沌とした時間が長く感じる。

 車内に電気がついて、車内アナウンスが流れてきた。

『誠に、申し訳ございません。現在、トラブルが発生したため、急停車いたしました。運転再開までしばらくお待ちください。』

 数分経っても、動く気配がない。点でバラバラに人が座っていて、静けさだけを感じる。

 窓の外を見ると、電車の近くにパトカーが見えた。

『お待たせしまして、大変申し訳ございません。現在、車両点検をしてますので、もうしばらくお待ちください』

 人身事故ではないようで、何かのトラブルが発生したようだ。

スマホが鳴って、LINEに「ねえ今、電車?」という言葉と妻の明日実の文字が表示された。そういえば、遅くなると連絡するのを忘れていた。

『電車だよ』と返す。すぐに『やっぱり、すぐに帰ってこれそうにないね』と返信が返ってきた。

『どういうこと?』

『なんか、迷惑系YouTuberが電車に自転車を投げ入れて、一時停止しているってネットニュースになってるの。』

『その電車が、俺が乗ってるってこと』

『松の上線でしょう?』

『うん』

何かを疑いたが、何もできない状態に困惑するしない。

『電車が動いて、帰る時間分かったら連絡ください。』

『了解です。』

 スマホを鞄に入れた、向かい側の窓の外を眺める。仕事に疲れて来て、誰かの迷惑な行為で、さらに疲れた気がする

「最悪」

 そんな言葉が少し離れた場所から聞こえてきた。本当に最悪な状況なのだろう。いつ帰れるのだろう。見通しのないつかない時間が過ぎていく。もう一度、スマホを鞄から取り出して、ネットニュースを検索した。


”動画の撮影のために、電車が急停止させた疑いで28歳の男2人を逮捕。”


 彼らは人に迷惑をかけたという意識があるのだろうか。逮捕されたら、もう二度としないのか。壮太にはよく分からなった。彼らは注目を浴びたい、お金を稼ぎたいなどの気持ちがあれば、同じことを繰り返す可能性もある。

 ただ、そんな考えたところで壮太には何もできないし、そんな人たちと関わりたくもなかった。そんなことを考えていると変な疲労が溜まっていく気がした。

 もう余計なことを考えず、ただ窓の外を眺めてることにした。頭を空っぽにするように、電車が動くのを待つ。目の前には誰も座っていないので、少し助かった。捕まった人間はたぶん罪悪感など持ち合わせていないのだろうと思い込んでやり過ごすことにした。窓から見える夜空が少し疲労を吹き飛ばされた気がした。

「お待たせ、致しました。発車します。」

 何事もなかったように、電車が動き出す。

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疲労と夜空 一色 サラ @Saku89make

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