節約毒

第1話

　この10年生活を切り詰めに切り詰め、貯金生活を送ってきた。

　どんなに辛くても、どんなに苦しくても浪費だけはせぬと強く自分に誓いを立てたあの日。

　ぼくは一家離散を経験した。

「家族３人、お互い他人同士になり、個々バラバラの人生を歩もうじゃないか」

　そんな父親の言葉に従い母親は離婚届にサインをし、ぼくは通帳ひとつ握らされて家を追い出された。

　新居が決まるまでの間、友達の家を転々とする。そんな日々の中で目に見えて減っていく貯金残高。

　恐怖でしかなかった。これがなくなったらと考えるだけで吐いた日もある。

　そんな日々を乗り越えて今がある。あっという間の10年だった。

　その10年の積み重ねがこの数か月で崩れ去っている。

　我慢が弾けて浪費と消費の快感がぼくを支配した。

　やつれた顔に張りと潤いが戻る。

　パサパサの髪に艶と潤いが戻る。

　体中に脂肪と筋肉が戻る。

　体が整っていく感覚にぼくは快感を覚えていた。

　そのおかげか生活も明るくなっていき、すべてが調子よく回りだし始めている。

　度の過ぎた節約がすべての破壊していたのだと実感した。使うべきところには惜しみなく使うべきだったのだ。

　この失った10年取り戻す。そんな気持ちでぼくは今日もお金を使うのだ。