決闘法
カナンモフ
決着
[決闘法]が正式に成立したのは、今日の午前五時だ。 私は総理大臣として、この成立を祝いたい。
今日から全ての人には決闘権、好きな奴と好きなタイミングで、合法的に戦うことが出来る。
勿論、この私とも戦える。 勝てば、総理の座を譲ろう。
戦え、復讐心、闘争心、妬み、全てを出し尽くせ!
ゴングが日本に轟いた。
部下が上司に、子供が親に、容疑者が裁判官に、
オランウータンが人間に、そして、総理大臣に国民が、挑戦状を叩きつけた。
「真田さん、この紙は何ですか?」
人を小馬鹿にした笑みを浮かべ、上司の岸岡は言う。
「見ての通り、挑戦状だ。 俺の人生と、お前の会社での立場を賭け合おう。」
「良いでしょう。 言いましたね? 人生、人生と。」
「場所は?」 「ここだ」 「時間は?」
「今、この瞬間からだ!」
真田が椅子を投げ、岸岡に当てた。 派手な衝撃音が鳴る。
ギャラリーの社員達が集まった。
「君は、仕事も、喧嘩も、出来ないのか?」
岸岡が椅子を握力で塵にし、言った。 岸岡は過去に、道を塞ぐチンピラを100人海の藻屑にしたことがある。 片やただの一般人、勝てる勝負では無い。 しかし、真田の目は燃えていた。
真田が構える。 岸岡もそれに応え構えた。
まずはパンチの応酬だ。
真田が二発、腰の入ったパンチを出した。 岸岡は一発目を肘で、二発目は右手で左に流し、そのまま胸へカウンターを入れる。 真田の胸に穴が空き、崩れ落ちる。
「終わりだ。 今すぐ病院に行けば助かるぞ? それともまだ戦うか?」
「勿論、戦うさ。 胸に穴が空いただけだ。」
ギャラリーとなっていた社員達が悲鳴をあげ、オフィスから逃げ出す。 男二人は再び向かい合った。
真田が構えを変えたことに、岸岡は瞬時に気づいた。 右腕を前に突き出し、左腕を脇下へ。
(正拳突きか? それとも、格好だけか?)
岸岡の深読みは、仇となった。 真田は構えをブラフに使い、回し蹴りを岸岡の頭へと直に入れた。
「がはっ! 中々……中々じゃないか、真田さん。 だが、良いのか? 足を離さないで。」
真田は自分の足を見る。 足、足はもう存在していなかった。 塵となり、宙に舞っているのが真田の足だったものだろう。
「我が家に伝わる武術、空振動を使わせてもらった。」
「効いたぜ、かなり、こちらも秘技を見せてやる。」
真田は残った片足で飛び、天井の火災探知機を掴んで勢いをつけて岸岡に飛び蹴りを放った。
岸岡は両腕を使い防ごうとしたが、逆に両腕は蹴りの威力に負け、砕け散る。 岸岡の喉に蹴りが突き刺さった。
両者は同時に崩れ落ちた。 1秒、2秒と時は過ぎてゆく。
立ち上がったのは、岸岡だった。 真田の心臓は、蹴りが突き刺さると同時に停止し、そのまま死亡していたのだ。
決闘が始まってからは、まだ10分も経っていない。 岸岡は真田の遺体に頭を下げ、その場を跡にした。
その後の岸岡の行方は、誰も知らない、家族でさえも。 ただ、毎年真田の命日となると、誰からか、花が一本真田の墓へと添えられているらしい。
決闘法 カナンモフ @komotoki
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