街ごとすれ違い転移 ─異なる世界に住む二人は、互いの世界に転移する─

Shimoma

プロローグ

 俺は、目の前に広がる異様な光景に目を細めた。


 無数の発光物で視界は染まる。


 俺は連続して響く乾いた音、爆発音、なにかの絶叫を聞きながら、それを呆然と見つめる。


 光と共に映るのは、何やら頑丈そうなスーツに包まれた大勢の人間と、様々な種類の強力な魔物が向き合い、攻撃しあっている様子。


 手前側に魔物、奥側に人間が位置している。


 魔物は己の口から火を吐き、尻尾を振り回して竜巻を発生させている。


 人間は黒光りする武器を構え、その先端から火花を散らし、鉛玉を飛ばしている。


 上空に目を向ける。そこでは、プロペラのついた、おそらく人間側の機械と、大きな翼を持つ、強大な竜が戦っていた。その数はお互いに十を超えている。


 元いた場所では見たことのない程の暗い空を見上げ、あり得ない程の冷たい風を体に感じながら、ここは夢の中なのではないかと疑う。


 しかし、無意識の中で俺は確信していた。このような信じがたい現実を目の当たりにして…………。



 ここは、彼らのいた世界だ。



 その時、手前側、つまり自分に近いところにいる魔物がこちらに気づき、その鋭い眼光を向けてくる。


 そう。俺も奴らの敵、人間だ。


 十体以上の魔物がこちらに敵意を向けた時、同時に俺の右手は、自らの左腰に向かい、そこから剣を抜いていた。


 俺は頼もしい愛剣の輝きを感じながら、微塵の躊躇もなく地面を蹴る。


「《凄風ウィンド》」


 それは魔術の詠唱。


 左脇から後ろに向けた剣先。そこから強風が発生し、すでに風のような速さで駆けていた体をさらに加速させる。


 まさに駿足。彼に反応できた魔物は一匹足らずいなかった。


 神速の斬撃が先頭の二体を斬り裂き、彼は群れの中心にて着地。

 

 斬られた個体が倒れ始めた時、ようやく魔物は攻撃を始めた。


 迫る火炎、突風、大岩。一瞬で命を消すそれらは、過剰な威力を伴って彼を襲う。


 彼は着地と同時に飛び出していた。敵の攻撃をもろともせず、ただひたすらに殺意だけを持って魔物に迫る。


 放たれる斬撃は一つ残らず速く、鋭く命を刈り取った。


 時折掠める相手の攻撃は、もはや意識の範疇にはなく、ただ胸から溢れる煮え切らない感情を、己の全ての力を用いてぶつけていた。


 左肩に引き絞った剣を相手の首に振り抜き、そのまま敵の体を踏み台にして飛ぶ。勢いのまま回転斬りを繰り出すと、風魔術を使って急に後ろに飛び、距離をとりながら詠唱。


「《電撃ライトニング》」


 高速の電撃が敵の頭に直撃した。


 狂気じみたその連撃は、彼を取り囲む側の魔物にさえ、ただならぬ恐怖を与えていた。


 千切れる程地面を蹴った足はすでに限界を迎えているが、魔術を使える彼にとって、それは連撃の終わりには繋がらない。


 最後の脚力で風魔術と共に空へ飛び上がると、彼は空の暗黒に染まる。


 ローブを羽ばたかせながら体を下に向け、剣先を未だ残っている魔物に定める。そして口を開いた。


「《氷柱雨アイスピアレイン》」


 静かに鳴った詠唱。それと同時に、剣の周りにたくさんの槍状の氷が生成される。


 それらは音もなく、かなりの速さで飛翔すると、静かに、しかし確実に三体の魔物の体を貫き、無数の穴を開けた。


 その魔術は一瞬で、恐ろしい冷気と共に敵を絶命させた。

 

 彼は力が抜けた状態で空中を落下していく。周囲に魔物がいないのを確認すると共に、彼はこの世界を観察した。


 立ち並ぶ大きな建物に文明の発達を感じつつ、未だ戦闘を続ける人間と魔物たちを見た。

 

 俺はいち早く、元の世界に戻らないといけない。

  

 彼にそう、誓ったから。




「雪野………」

 

 二人目の主人公は今、異世界に飛び出した。

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