諦観

「結城さん、諦めちゃったのがもったいなかったね」

 テスト返却のとき、先生が話しかけてきた。どうやら、最後の問八の問題を全て空欄で提出したことを言っているらしかった。

 問八の配点は、一問三点の計十五点だ。

 ここの問題を一つでも解けていたら、私の化学の点数は平均点より高くなっていた。

 きっと、そういうことを言いたいのだろう。


 でもね、先生。私別に、諦めた訳じゃないんだよ。

 テストで点数を取って、良い成績を取って、良い大学に行く。そんなことよりももっと先を見ていたんだよ。

 右手でつかんだ問題用紙の最後のページ、ちょうど問八の問題文が書かれている辺りに並んだ、沢山の文字。


 ねえ先生、知ってる? 私の将来の夢。

 私いつか物語を書いて沢山の人に届けたいなって思うの。物語を書くことがすきなの。本を、出したいの。

 私にとって、あのテストの時間の最後の十分は、そのための下準備のすぎなかったよ。


 諦めただなんて、そんな先生の視点だけでものを計らないで。

 全然、私、諦めてなんかないんだから。



てい‐かん【諦観】

[名]

1 本質をはっきりと見きわめること。たいかん。諦視。「世の推移を—する」

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