モルモット

「絢ちゃんはどんな仕事をしてるんだっけ?」

 中学の同窓会に顔を出してみたら、中二の頃よく一緒にいたセリナに話しかけられた。別に就職先を教えたことなんてないから普通に聞けばいいのにとか思いつつ、返事をする。

「製薬会社に勤めてるよ。だからまあ、研究職って言っても差し支えないのかな」

「えっすごい! でもそうだよねえ、絢ちゃん中学生の時から頭良かったもんね。よく教えてもらったこと思い出しちゃった」

 そう言って、彼女はカルビをつまむ。同窓会の会場は、中学校の近所の焼き肉屋だった。相変わらず、セリナは箸を使うのが下手だ。

「具体的にはどんなことしてるの? あたしが聞いても分かんないことかもしれないけど!」

 カラカラと笑うセリナに少し躊躇う。でも、そのまま口を開いた。

「んーなんか、動物実験の担当してる」

「どーぶつじっけん、ってモルモットとかでやるあれってこと?」

 セリナはそのくるりとした目を大きくして私の言葉を繰り返した。まるでペットショップでよく見かけるオウムの様。

「そう」

 嫌な予感がしないでもないので、この話題が流れるように期待して、わざと軽い相槌を打つ。

「ええ、あたしそういうの絶対ムリだ~。罪悪感とか感じちゃったりしないの?」

 箸を持たない左手で口元を覆い、予想と大して違わない言葉を彼女は口にした。

「一応仕事だしね。感謝はあれど、罪の意識はそんなにないかな」

「絢ちゃんは大人だね……あたしだったら絶対可哀想になっちゃう」

「まあ向き不向きってあるからね」

 皿に盛ったタンやらカルビやらにタレをかけるセリナを尻目に、私は頼んだオレンジジュースを一口飲んだ。いつの間にか氷が溶けて味が薄くなっている。

「あれ、絢ちゃんお酒頼まなかったの?」

「うん、明日も仕事だし」

「日曜日なのに? 大変だね」

「でもやりがいはあるよ」

「すごいなあ……あたしみたいなOLとは全然違うじゃん」

「でもそっちもそっちの楽しさがあるんでしょ?」

「まあね~」

 流行りのくすみピンクに塗られた爪をいじりながらセリナは言う。ひかえめなラインストーンが照明に反射している。

「動物実験か~。あたしがやったらなんか人間として大事なもの失くしちゃいそうでダメだなあ」

 きっとアルコールに押されて出てきたそんな台詞。それを聞いて、私は心の中で苦笑するのだった。

 ねえ。焼き肉を美味しく食べてる人間が動物実験についてとやかく言うのはなんか違くない? その豚やら牛やらは、実験されるためでさえなく、ただ殺されるためだけに生まれてきたのに。その命を何も考えずに享受しているくせに他人の仕事に文句をつけるのは、ねえ、違くない? 

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