キャンプ場にて

第30話 : 重いクルマ

「はい、ジュース。あ~んする?」


 絶賛運転中の俺の脇で、水琴がストローを俺の口にねじ込んでくる。

 乗車しているメンバーの中で唯一車を持っているのが俺だった。


 実家で車を買い換える際、不要になったものを貰ってきたのがこれで、年季の入ったリッターカー。

 隣に水琴、後ろに間地代理と智鶴が乗っている。俺以外の乗車位置はジャンケンだ。

 車内はお世辞にも広いと言えない。非力なので四人乗車だと非常に重く感じる。

 アクセルを強く踏まないと加速しない──どころか坂道をちゃんと登らない。


 普段は一人でしか乗らないし、隣に智鶴を乗せたことはあるけど片手で数えられる位だ。

 人を多く乗せていれば重量のせいで運転感覚が違うからもの凄く緊張しながらハンドルを握っている。

 もちろん、片手でジュースを持つなんてことはできない。

 だからこうして水琴が飲ませてくれている訳だが。


「おい、水琴、危ないぞ」

「へへ、ドライバーは甘やかさないといけないの。気持ち良く運転して貰わないと、ね」


 だからと言って、ストローをちらつかせるな。視界の邪魔だ。余計に危ないだろ。


「栞菜ちゃん、危ないことはやめてね」


 間地代理がピシャリと言う。水琴はそれ以上のことはできない。


 狭い荷室は彼女達の荷物と買っておいた食材で溢れている。

 何故か会社の備品として置いてあった巨大なクーラーボックスを借り、その中には肉や野菜、調味料などが満杯に入っている。

 テントやテーブルは現地で借りていて、設営までしてくれるとのこと。

 それでキャンプと言えるかどうかは別として、これが現代風だと言われれば納得するしかないのだろう。

 自分達が用意するのは食材と着替えだけ。凄いことにここにはオプションで風呂まであるのだ。


 昼前にちょっとした川辺にある目的地に着いたら、早速昼食の準備をする。

 これは各自持ち寄りの弁当。智鶴と同じものを食べる訳にはいかないので俺は自分でサンドイッチを作っておいた。

 卵とハム、それとツナが具材のもの。

 間地さんは塩パンを使ったサンドイッチ、具材は贅沢にもローストビーフやスモークサーモンなど。彩りでパプリカやオリーブなんかが入っている。水琴はコンビニのおにぎりだけで、智鶴はおにぎりと凄いことに重箱でおかずを用意してきてある。


「皆でつまんでください。充分な量はありますから」


 蓋を開けると、肉じゃがやウインナー、鱈の西京漬けを焼いたもの、恐らく自家製のピクルスや揚げシュウマイなどが所狭しと入っている。見るからに美味しそうだ。

 別のタッパーにはポテトサラダと卵サラダもある。


「お、凄いな」

「智鶴ちゃん、頑張ったのね」

「う・・・・うん、美味しそう」


 水琴がちょっと元気がなさそうだけど、まさか俺の運転で酔ったのか?

 間地代理もちょっと複雑な顔をしているから、帰りはもっと慎重にならないとマズイと思う。


「「「「いただきます」」」」


 サンドイッチに肉じゃがが合うとは知らなかった。とても美味い。

 間地代理のものも無茶苦茶美味しい。特にこのために作られているようなパンが香りも風味も抜群に具材と合っている。

 水琴が下を向いて無言で食べている。それ程調子が悪いのか。


「水琴、お前酔ったか?」

「ううん、大丈夫・・・・本当に大丈夫だよ」


 顔色が悪い訳じゃないから、大事おおごとではないのだろう。

 お腹がいっぱいになって、運転の疲れもあったから食後に眠くなってきた。


「優治君、片付けは任せて。運転疲れただろうから休んでいて」


 ここにはデッキチェアまで揃っている。

 間地さんの言葉に甘えて横になったらそのまま眠ってしまった。



「鬼城院君、起きてください」


 水琴の甘く、拗ねるような声で起こされたのはそれから数時間が経っていた。

 ん、水琴のそんな声を初めて聞いたような・・・・

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