第28話 : 愛情の分だけ

「これ、智鶴ちゃんらしいわね」


 俺の弁当を見ながら間地代理がポツリと言う。

 誰がこの弁当を作ったのか教えていないのだが、なぜ?

 らしいって、智鶴の弁当を見たことがあるのだろうか。


「いや、これは・・・・」

「隠さなくたっていいでしょ。芸能人じゃあるまいし、恋愛も結婚も自由なんだから」

「は、まあ・・・・」

「図星みたいね。優治くん、やっぱり貴男は素直ね」

「間地代理、ハメましたね」

「ふふ、こういうこともビジネスでは大事よ」


 してやったりという微笑みだろうか。

 破壊力が半端ない笑顔で俺に語りかけてくる。


「この前ね、智鶴ちゃんと一緒にお弁当を食べたの。その時のものによく似ていたから。ふふふ」

「はあ、そうですか」


 それ以上の言葉が出てこない。

 というか、何を言ってもこの人に弄ばれる未来しか浮かんでこない。


「そんなに警戒しなくてもいいのよ。さ、食べちゃいましょ」


 間地代理は自分で作ったと思われるサンドイッチを上品に頬張っている。

 智鶴に負けず劣らず優雅な動きで、口の中でレタスが噛まれている音が僅かに聞こえてくる。

 この人が口をモグモグさせているのを愛らしいというのは年齢的に可笑しいのかも知れないが、妙に庇護欲を誘われる。


「ん、何見てるの?」


 オトコなら皆、思わず見惚れるんじゃないだろうか。

 胸を腕で挟むような形で食べているから、ただでさえ豊かな持ち物が凄く強調されて、その愛らしい表情と併せて直視できないほど色っぽい。

 とは言え、ガン見していたのがバレてしまった。


「あ、いえ、特に何も」

「食べてみる?」


 これ、サンドイッチのことだよな。間地代理を食べる・・・・ブルブル、何を考えてるんだ。


「いえ、大丈夫です」

「ふふ、遠慮しないで」


 そういう色っぽい声で言わないで欲しい。くだらない妄想が膨らむじゃないですか。


「ど、う、ぞ、召し上がれ」


 サンドイッチが弁当の上に置かれる。


「いや、その、そういうつもりじゃ」

「食べられないの?じゃ、あ~んね」


 サンドイッチをつまんで俺の口に近づけてくる。これ、食べない選択肢はないよな。

 それにしても三十近くなって素面しらふでこういうことをするのは無茶苦茶恥ずかしい。


「美味しい?」

「凄くおいひいでふ」


 ボリュームたっぷりの一口をなかなか飲み込めない。


「で、智鶴ちゃんのお弁当と比べてどう?」

「ボフッ・・」


 最後の一飲みの前に吹いてしまった。


「あらあら、汚れちゃうじゃないの」

「すみません」

「大丈夫?ちょっと待ってね」


 ハンカチを取り出して、俺のズボンをはたいてくれるのは良いのだが・・・・

 そこを刺激されると、ブルンブルンと揺れるお胸のせいでちょっと反応しかけている俺のあるところが本格的に起立しちゃうのですが・・・・


「あら、ウフフ、まだまだ若いのね」

「はは」

「これ以上やるとマズそうね。あとは自分でやってね」

「も、もちろんです」


 早速バレてしまった。さすがにこれは恥ずかしい。


「さっきの話だけど、智鶴ちゃんが一生懸命作ったのだからちゃんと食べてね。間違いなく愛情の分だけ私のものより美味しいわ」

「あ、はい。でも、間地代理のサンドイッチもとても美味しかったです」

「ありがとう。あ、仕事の時間以外は『代理』と呼ぶのは止めて欲しいかな。ちょっと壁があるみたいじゃない。それと智鶴ちゃんと仲良くしてあげてね」


 そう言って、間地代理は先に戻ってしまった。

 一人で食べる弁当は安定の味がした。

 でも、どうして俺と一緒に食べたかったんだろう。


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