運命のタクト



理想に描く 男と女

男はまめで みめかたち良く

女といえば 操正しい

生まれながらの 八方美人


二人はいつしか 相思相愛

誰もがうらやみ ため息ついた

ただ意地悪な 運命だけは

二人の仲が 面白くない


どんなに固い 愛の結び目も

おれの指先に 耐えたものはない

百戦錬磨の おれのタクトで

愛の調べを 試してやろう


さっそく運命 女に化けると

伊達男たちと 街でいちゃいちゃ

はたしてそれを 恋する男が

すれ違いざまに しかと目撃


男は両眼を 大きく開いた

誠実なだけに 嫉妬も深い

私が捧げた ありったけの愛

それを恋人は せせら笑ったか!


ああそれだけは とんだ早合点

勘違いゆえの 嫉妬の炎

昔アモールが 矢で火をつけた

それの何倍も 今は燃え上がる


女はまったく わけが分からず

男に抱きつき 優しく訊ねる

いったい何に とり憑かれたの

まるで昔の あなたでなくてよ?


一度ふくらんだ 男の焼きもち

それくらいでは おさまりきらぬ

なじってやじって あてこすりした

浮気のつけは まだ残っている


これには女も 愛想を尽かし

ある日突然 去ってしまった

それも道理だ この安天下

地獄の業火に 誰がいたがる?


   *


これで終わりなら 幾分ましだ

誤解が愛の 隙間を埋める

正義の怒りは 男をなだめ

名もなき理由は 女を支える


だが運命は さらに意地悪い

ここから先こそ 喜劇の醍醐味

さかしい運命 男の前へ

おどけて飛び出て はい種明かし!


男といえば それを知るなり

幽霊のように 血の気が失せた

許してくれよと 女を呼んでも

どこを探しても もう見つからない


後悔懺悔 何でもござれ

流しに流した 涙の夜雨よさめ

嫉妬の炎は とうに消えたが

鎮火するには ちと遅すぎた


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